第4章 第10話
いつでも愚痴を零すのは自分の方が多い。助けてもらうのも。
「栞!」
「戻っていいよ…綾香…大丈夫だから…」
「でも…」
「酷いよね…あたし……」
「えっ……」
「一瞬でも受け入れてもいいかなって思った…ずっと変わらずに告白しようとし続けてくれる坊やを見て…でも、そんなのは嘘…好きでいてくれる事にしがみ付いていただけ…離れないように…一生懸命しがみ付いて…全部自分本位に…」
「……栞」
「でも、会える時間が減ったけど…一真が好き…」
「ん…大丈夫?」
「うん…またね」
栞は、綾香の顔を見ずにそう言うと駆けていった。
立ち止まれば、涙が溢れそうだった。
何処まで走ったのか覚えていないけれど、息が切れ、足を止めて、電話を取り出した。
『…留守番電話サービスセンターです…発信音の後にメッセージを録音してください…ぴーっ』
「……栞です…逢いたいよ………」
何を言えば良いのだろう。何を伝えなければいけないんだろう。今の自分を見て欲しくない。でも、知って欲しい。強いばかりでいられないと言う事を。何かにしがみ付いていないといけない現実を。
怖かった。亡くすのが怖かった。
偶々、知り合った。駆け引きなしに惹かれた。
何に?そう考える事もあるけれど、考えきれないものがあった。
愛している。好き。恋している。どの言葉があっているのだろうか。
その言葉を伝えればいいんだろうか。
(無理よね…この時間…)
栞は、時計を見て溜息をついた。23時少し過ぎ。呑み会にいっていれば、まだ呑んでいるだろうし、付き合いの中抜け出す事も叶わないだろう。帰っていれば案外寝ているかもしれない。どちらにしても留守番サービスに繋がったなりの理由はあるはずだった。
「…ごめんね、こんな時間に、言ってみただけ」
栞は、溜息をついて、歩き出した。
「何しているの?」
綾香は、店の前で呆然としている孝之に声をかけた。
「えっ…?」
「振られたんでしょ?」
「……はぁ…」
「できる事をしなさいよ…」
「何ができるんですか?」
孝之は投げやりに言った。
「何も…でも、結果を見届けるとか…忘れるとかはできるでしょ…」
「………」
「振られて終わりもいいけど…次に向かいなさいよ…」
「………」
孝之は、ばつの悪そうに微笑むと走り出した。
(世話の焼ける坊や…)
綾香は、溜息をつきルームへと戻っていった。
第4章 第1話