第1章 第8話
「安藤…?」
(あれ…この声は…)
「隠れていろよ…」
みなぎは、そう言うと立ち上がり、声の近付いてくる方向へと向かって歩き出した。
賢治は、その様子を眺めていた。駆け寄る女が独り。周囲の様子を気にかける様子も無く、みなぎに飛びつくようにして抱きつこうとして、みなぎに避けられた。コントだと笑えるのだが、実際にそれをされると飛んだほうは結構傷付く。
「そこ、芝生のところで寝転んでいるからさ…」
「安藤…」
「早く行けよ…」
「説明までしてくれたんだ?」
「何を?」
「あたしが心配して…とか…」
「するか、そんな事……告白は、自分でするものなの…まぁ、恩着せがましいことは言わないほうが良いけど…俺的には、だけどね…」
「ん、ありがと…安藤」
女は、みなぎから離れ、自分の方へと向かってきた。賢治は慌てて、芝生に寝転びなおした。
「大槻…」
「あれ…新宮寺…なんで」
「ここで喧嘩をする馬鹿がいるから…」
新宮寺美保は、目に涙を一杯溜めながら賢治の頭元にたった。
「パンツ見えるぞ…」
「莫迦…」
美保は、いきなり賢治の頭に向けて勢いよく足を踏みつけるように放った。
「!(オイオイ)」
賢治は、瞬発力を利用して立ち上がろうとした。が、そのまま頭を戻した。雨のように降り出した涙が顔に当たる。スカートの中に視線を向けたところでそれは変わらない。冗談にもならない状況の中で何かを口にするほど野暮ったいものは無い。
その涙が何を意味しているのか、わからないほど鈍感では無いつもりだ。
「ごめん…」
「どうして、謝るの?」
「……心配してくれたんだろ…」
「ん…」
「俺の勘違いかもしれないけどさ…もしも、俺を好きでいてくれたのなら…ありがと」
「………」
「俺って…迷子なのかな?」
「えっ?」
「安藤が、な…」
美保は、賢治の隣に座り、騒動の落ち着き始めた土手を眺めた。本当は、全てを話して、この事態自体を回避する事もできた。でも、それをしなかった。みなぎの助言があった所為でもあるが、最終的には自分で決めて言うのを辞めた。
第2幕 第1章 賢治のらぷそでぃ
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