第4話
「ご馳走様でした…」
「いいえ、こんなところまで送っていただきまして…」
「ううん…ねぇ、一真くん…」
「?」
「明日になったら忘れている?」
「……それの方が良いのか?」
「そうじゃないけど…」
「少しは、信用しろよ…何処を気にかけたかは知らないけど……」
「うん…」
「電話くれ……」
「えっ?」
「明日、朝一でも、昼休みでも…」
「その時、俺の反応で解るだろう…?」
一真はそう言うと、さっきメモリしたばかりの栞の電話番号をデーターごと消去して見せた。
「あっ……」
「俺は、忘れない……だから、電話待っているよ…」
「一回しか掛けないからね…」
「ああ…おやすみ…」
一真は、そういって栞に背を向けた。徒歩5分程度のところに自宅マンションはある。
何処にでもある珍しくもない出会い。ただ違うのは、何も互いに求めていない事だった。そこにいる。それだけで不思議と落ち着ける相手だった。それ以上の事は何も求める必要がなかった。互いに何も聞かない。普通に世間話をする程度の関係だった。周りから見れば、仲の良い友人程度にしか見えなかっただろう。
ふーっ。
一真は、ようやくネクタイを緩めた。本来なら、仕事が終わった段階でネクタイは外すのだが、なんとなく外すタイミングにめぐりあわなかった。そのまま飲みに来て、そのままコーヒーを飲みに行った。で、ようやく一人になってネクタイを緩める。
久しぶりに愉しい時間を過ごした。
3時少し過ぎ、家に着くと、スーツを脱ぎ捨てるようにしてベットに倒れ込んだ。
第1話
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栞の物語 第1話
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一真の物語 第1話
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