Runner 41 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

夕菜は、苦笑しながら周囲の様子を眺めていた。ここまできたら他人事だった。そう思わなければ、気分が滅入ってしまう。そんな気すらする。裕樹は、お構い無しに、180sxのテールを振りながら、確実にSAの入り口に向かって走っていった。

(あれ…)

突然、180SXの制御がされたかのように振動が消えた。さっきまでの気持ちが悪くなるほど伸び振動すらも無くなる。まるでエンジンを止めているかのような静寂が車内に広がり始めていた。だが、エンジン音は相変わらず煩い。

(裕樹…)

夕菜は、その変化を確認するかのように裕樹の方へと視線を移した。さっきまで、冷や汗をかいていたはずの裕樹から汗が消えている。少し高揚とした感じの表情も何処か冷め始めていた。まるで、この状況を愉しむかのように、初めて運転する車を滑らせるように走らせている男がそこにいた。

裕樹の運転は、比較的安定している。仕事をしている最中に事故を起こした事もない。正確でいて完全な仕事の完遂。それが仕事人としての裕樹の評価だった。それでも、夕菜からすれば、どこか荒々しさを感じる部分は否めなかった。そこには、幾つもの主観が入っている。抱かれた男である事も巻き込んだ男である事もひっくるめて、少し甘い点数のつけ方をしてきたのかもしれない。できれば、この世界、裏から去るほうがいいとさえも思える程に裕樹は甘かった。

『騙すよりは、騙されている方が好いとおもうけど…』

裕樹は、よくそう言っていた。その言葉の真意が何処にあるのか夕菜にはわからなかったが、その思いでは、この世界では生きて行くことができない。他者を出し抜くこと、自分を守る事、それができて初めて仕事人として半人前である。時には、仕事の為に、仲間を捨てる事を要求される事もある。それを行えて、一人前にカウントする事ができる。

裕樹には、どれもが少しずつ欠けている。

せめて非常さを持ちあわせていれば…。そう、思ってきた。そうしないと、いつか死んでしまう。

この仕事をしていく上で、恋心は、邪魔なものだ。少なくとも夕菜はそう思ってきた。そう、思わなければやれない事の方が多かった。

この世界に求められているのは、能力にすぎない。そこに付く身体的特徴は必ずしも必要ではない。プラス面もあればマイナス面も当然のようにあるだろう。そのとき、マイナス面をどれだけ切り離せるのかが焦点になる。

人質に対した時、どうすべきなのか。それは、その仕事人の置かれている状況に左右されるだろう。

たぶん、裕樹は、左右されるコマが多い。仲間とされるメンバーに対して余りにも無防備すぎる。疑えとまではいわないが、疑わな過ぎるのも問題だった。

そういう性格は、運転に現れる。逆に運転に現れる事は正確にも反映される。

夕菜は、裕樹の手元を除きこむようにして速度を確認した。

(150…さっきよりも…)

その割には、裕樹の表情にゆとりがあった。

くだり坂、30度とも思えるほどの急カーブ、周囲の車が減速をしていく中で、180SXは、車の間をすり抜けて走り抜けて行く。

何よりも、車を操作する裕樹の表情は柔らかく優しい。時々見せる口元の笑みが愉しんでいる事を教えてくれていた。

(化けたの?)

車一台くらいではわからないが、夕菜は、そう感じた。

ゾクゾクとする感覚に自分の両手で自分の両腕を出し決めながら、芯が熱くなるのを感じていた。



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