Wedding 12(改正版) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

光は、ブライダルアライの宮城に返事をするとシンデレラ城を見上げた。きっと、こんな独り占めをするように見られる事は他に無いだろう。何よりも、自分達だけのために用意された空間に感謝の気持ちで一杯になってきた。

ディズニーリゾートウエディング「フェアリーテール」。

ただのイベントのつもりだった。入籍をしてから、時間を置いての挙式。そこには、自分の家族しか存在していない。友人にも、親にも伝えないままの渡米。そこには、何処かに抵抗があったのだろうか。意味の無い抵抗と、他人は言うのかもしれない。ただ、誰かに伝える必要があるとも思えなかった。

祝う人の存在はどうでもいい。

自分達が、自分達の思い出として、作り上げればいい。ただ、そう思っていた。

少しのきっかけと、少しの偶然が招いたイベント。そこにあるのは、愉しもうという思いだけ。それ以上の思いは持ち合わせていなかった。

「光?」

「ン…?」

「どうしたの…?」

「嬉しいよね…」

「えっ?」

「俺たちのために、協力をしてくれる人がいる…」

「………」

紗智も光を習ってシンデレラ城を見上げた。

ディズニーパークは、世界に4箇所(2004年現在で)。その地区事に城は存在している。それぞれの特色を持って。東京、オーランド、パリには、シンデレラ城が、アナハイムには、眠れる森の美少女城(記憶違いで無ければ)があり、それぞれの城を背景に写真撮影が行われてきた。一部パークでは、フェアリーテールにおける撮影が中止になっているところもあるが…。

ここ、オーランドでも911事件を境に限界体制が引かれている。何かのきっかけで、城の前での写真撮影は中断されるとさえ、言われている。らしい。

通用門から入ったジョナサンが、裏側ツアーをしている最中に言ってくれた。

わずか1日に8カップル。そのうちの1カップルにだけ許される特別なプレゼントが、この写真撮影なのだろうか。確かに誰でも、この撮影をする権利を持っている。リゾートで挙式をして、写真撮影を申し込むだけの事だ。だが、全ての人に許可が出るわけではない。だからこそ、スタッフ達は、撮影を見守るように手を止めているのかもしれない。

スタッフたちは、ジョナサンがカメラのセッティングをしている間、惜しみなく祝福の声をあげてくれる。が、闇の中から飛んでくる声は、建物に反射され、でどころが全くわからなくなる。

それでも光は、「さんきゅ~」と言葉を返しつづけ、手を振って、車に乗り込んだ。

撮影の場所は、シンデレラ城周辺というだけで実際は決まっていないらしい。カメラマンとスタッフの交渉で決まっていく。

「時間とスタッフとカメラマンの気分に左右される事も多いんですよ」と宮城は言った。

「でも、ラッキーですよ…」

「えっ?」

「あたしがついてきた撮影で、シンデレラ城前がこんなに短いのは…」

「?」

「一応、7色を狙いますから…」

「そうなんですか?」

「ええ…」

宮城がにっこりと微笑むとジョナサンは宮城に何かを伝えた。

「何ですか?」

紗智は、助手席で話す宮城に身を乗り出すようにして尋ねた。

「ジョナサン曰く、妖精は、誰にでも微笑むわけでは無いですから…」

「?」

「あっ、着きますね」

ジョナサンの運転するワゴンは、シンデレラ城を迂回して、丁度裏側へと止まった。そこに、一人の男性が立っている。シンデレラ城正面に着いた時にもいた男性だ。撮影を管理するスタッフである。ジョナサンの到着が予想よりも早かったのか、少し驚いた顔をしている。

「メリーゴーランドの電気を入れてくれるそうですよ…」

「えっ…(ここで・・・撮影?)」

光は、ワゴンから降りると電気の消えているメリーゴーランドを見つめた。何処かさびしい雰囲気がある。遊園地特有の寂しさというのだろうか。息を潜め、隠れているような寂しさがあった。

青さを帯びだした空の下でみる休憩中の馬達は、少し気だるさそうにもみえた。

光がそう思った刹那、ばん!という音共にメリーゴーランドは光につつまれた。音楽がかかり、近くにいたスタッフが、光に「こんぐらっちれーしょん」と声を掛けた。

「さんくす」

パークに入って、顔を見て返事をしたのは初めてだった。

「It be the day when today is good」

「?」

「良い日になるようにって…」

介添えのために来ているブライダルアライの宮城が、光に耳元で囁いた。

「あっ、さんくす」

「good luck!」

「さんきゅべりーまっち」

スタッフは、ウインクを残して、シンデレラ城の方へと歩いていった。

紗智は、撮影の準備を始めているジョナサンを眺めながら感嘆の溜息をついた。

(幸せ…ってこんな感じかな…)

光に言われるまでも無く、スタッフ達の心遣いが嬉しかった。一つ一つの気遣いは些細なものなのかもしれない。マニュアル化されているのかもしれない。それでも、暖かく感じられた。

写真撮影。ビデオ撮影と違い、音など封じ込められ端無いのに、息を潜めてくれている。

思い出のBGMには作業の音は不釣合いという配慮があるのだろう。そんな細やかな配慮がうれしかった。

全ての出会いに意味がある。

その言葉が好きだった。別に、運命や宿命という言葉に捕われるつもりは無い。ただ、出会う事には意味がある。出会う事が運命なら、宿命なら、その事に意味がある。今という時は、過去という時の中での選択が作り上げた幾つもある未来の一つに過ぎない。幾つかの別れの上で、今の関係を得てきている。それは、光も同じだろう。全ては、まばゆい見ぬ未来の階段に過ぎない。

「OK…紗智…」

ジョナサンは、紗智を馬の元へと導いた。

(あっ…)

光が溢れかえるメリーゴーランド。周囲の明るさの所為か、メリーゴーランドが別世界にあるようにすら思える。その一角、馬に腰をかけた。

ジョナサンは、光の元へと向かい、光の立ち位置を示した。カメラの向こう側にもかかわらず。

(?)

「紗智…光を見てください」

「あっ…」

光の雲の中に立つ白馬は、光をジッと見詰めている。まるで、光の元へ連れて行ってくれるかのように。

「OK、良い笑顔です…」

メリーゴーランドでの撮影は光に包まれて終わった。瞬く間というのだろうか。いつの間にか終わり、ジョナサンは時計をちらりと見て、光に微笑んだ。

「Next」

「?」


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