これも・・・恋物語 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「もう終わりにしましょう…」
突然だったその言葉にそれほど驚かなかったのは、予感があったからだろうか。特別に何も感じない。恋の始まり?という奴もそれなりに突然だったが、何も思わなかった。どちらかといえば拘束されるような見えない枷がつけられたようで少し寂しい気がした。
「ああ…そうだな…」
俺は、結城哲也は、コートの内ポケットから鍵の束を取り出すと奥名純子の部屋の鍵を外し、少し寂しげに笑いながら手渡した。これで終わり。短いような長いような3年にピリオドが打たれた。
特別にかける言葉はない。彼女は、ガキだった俺をみていた。それだけだった。何時までもガキでいられるわけがないのに、ガキだった俺を見続けた。それはきっと特別じゃないんだろう。出会った頃のあのままで…そう思い続ける人は少ないのかもしれない。でも、俺は、少なからずの成長をしている。当り前のようだが、別れ際に友人達がよく言われている。「あの頃のあなたが好きだった」と。そんな幻想に付き合えるほど、多分、俺はのんびりとしていない。のんびりとする程、俺の人生は気長ではないだろう。
今日するべき事を明日に繰り越す程度の事はできても、今日思った事を来週にするほど制限のない時間は与えられていないはずだ。だいたいが、明日はどうなっているかわからない日々なのに…。とはいえ、別に不治の病ではない。普通にそう感じているだけだ。そう感じていなければ、もっと怠惰に過ごしているだろう。
触れば切れてしまいそうなほど鋭利なナイフのように、俺は、ピリピリとした雰囲気を醸し出していたらしい。その俺を好きなったのが彼女だ。別に恋人が必要だったわけではないが、告白されて、付き合うようになった。21の頃だ。早いのか遅いのか、純子が初体験の相手だった。別に、初体験と告げたわけではないが、その辺は女の方が敏感に感じ取るだろう。
色々な事を学んで結果、俺がいる。
そして、彼女には新しい恋人がいる。俺と違い、彼女は、もてるタイプらしい。だから、その事をとやかく言うつもりもない。
まぁ、簡単に言えば、次の男ができたからお古はいらない。と言う事だろう。
で、不思議なのが、負け惜しみでもなんでもなく、清々しいと感じる俺の存在だった。少なくとも、俺の友人達は、1年以上付き合った後だと、結構、愚痴愚痴言って飲み明かすのだが、そんな気分にはならない。
俺って、本当にコイツの事を愛していたんだろうか?
それが、純子に対する最後の感情だった。
せめて、振り返らずに去っていこう。それが、俺の思いついいた最後の礼儀だ。

哲也は、純子に背を向けて歩き出した。特別に何かを伝える必要もない。実のところ、部屋も引越しの準備が終わっていて、さっき荷物を運送会社に預けたところだった。偶然のなせる業なんだが、住宅ローンの利息が低金利の時代を狙っての行動だった。幸いかどうかは別にして、引越しの事を告げていないのは……。
純子は、哲也から預った鍵を鞄の中に投げ込むと哲也に背を向けるようにして歩き出した。振ったはずなのに何か釈然としない。哲也は、別れに抵抗する予定だったが、全くそんな感じを醸し出さないのでイラ付いている部分も確かにあるが……それだけではないような気がする。だが、そんな事はどうでもいい。新しい恋に打ち込めるのだから…。
純子の新しい恋人は、高校時代からの憧れの先輩だった。告白をしたのは、哲也に告白をする1ヶ月ほど前だった。当時は、独立したばかりで恋をするゆとりがないと振られた。が、それは女としての魅力が足らなかった所為だろう、と自分なりに分析ができた。翌週にあったサークルの同窓会、そこで先輩の一人が彼を恋人にしたといっていた。つまりは、体良く振られたという事だ。
それから2年。先輩達は、意見の不一致という事で別れた事になっている。が、実際は、事業上の借金が原因で別れたらしい、というサークルOB情報があった。苦しい時に支える。と、言うつもりはなかったが、なんとなく支える形なり、いつの間にか恋人みたいになった。哲也と彼との間の恋にもうんざりし始めた頃、彼がプロポーズしてくれた。哲也が同時期にプロポーズをしてくれていたら結果がどうなったかはわからないが、もしを語る必要はない。彼を選んだのだから。だから、プロポーズの返事をする今日、哲也との関係を清算した。
純子は、足を止め、振り返り、「友達して、また会いましょうね」と微笑みかけようと思った。が、既に哲也の姿はない。この通りは一本道で、何処か店にでも入らない限り、消える事などないはずだった。
(何処かで…泣いているのかな?)