「きみの鳥はうたえる」 | 土方美雄の日々これ・・・

「きみの鳥はうたえる」

1990年に自死した佐藤泰志作品の映画化は、「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」に続く4作目。今回は初期の代表作で、初めて芥川賞候補になった「きみの鳥はうたえる」。

その原作を読んだのは、もうだいぶ昔のことだし、原作に忠実な映画化かどうかは、原作そのものを、もう、ほぼ覚えていない上に、その作品が掲載された佐藤の作品集も、自室の本の山に埋もれてしまって、取り出すことも不可能。ただ、同作が書かれたのは1970年代のことだけれども、映画は現代が舞台。それに、主人公らの住む町も、東京郊外の国立や国分寺から、佐藤の生まれ故郷である北海道、それも函館に移し替えられているので、原作に忠実な映画化でないことは明々白々である。でも、映画がまとう雰囲気は、紛れもなく、佐藤の小説世界そのもの。

函館の書店で働く、主人公の「僕」は、失業中の友人・静雄と共に、狭いアパートで共同生活を送っている。そこに、同じ職場で働き、僕とは肉体関係がある佐知子が頻繁に遊びに来るようになり、男2人と女1人の、危うい人間関係が始まるという、佐藤作品ではよくあるパターンの、青春小説である。

僕には柄本佑、静夫には染谷将太、佐知子には石橋静河というキャスティング。監督は、三宅唱。

自分の感情を、なかなか、表に出さない僕に対し、いらだつ佐知子の気持ちは、次第に、優しい静雄へと移っていき、そして、ついに、ある日、佐知子は僕に、静雄とつき合うことにすると、宣言する。それに対し、僕はどう答えるのか・・という物語。その後の3人の関係がどうなってしまうのか、映画は一切、語らない。静かで、残酷、破局を孕んだ、ヒリヒリするような、青春ストーリィである。

必ずしも、成功したとはいえない佐藤の作家人生だが、よき後継者たちを生んで、世代を超えて今も、確実に、光輝いている。

新宿武蔵野館で、観た。