「ラビット・ホラー3D」 | 土方美雄の日々これ・・・

「ラビット・ホラー3D」

清水崇待望の新作だが、2009年製作の「戦慄迷宮3D」と地続きのような、作品である。

主演には、今が旬の若手演技派、満島ひかり。その弟役には、渋谷武尊。その他、香川照之に大森南朋といった演技派が脇を固め、撮影を独自のカメラワークで知られる、オーストラリア出身のクリストファー・ドイルにゆだねる等々、まさに公開前から話題満載の、3Dホラー映画。

地続きと書いたが、前作「戦慄迷宮3D」では、「戦慄迷宮」という遊園地のアトラクションそのものが、いわばテーマだったが、「ラビット・ホラー3D」では、主人公と弟(最後には、父も・・)が迷い込む遊園地は、あくまで主人公たちの心が生み出した幻の迷宮。そして、その迷宮の案内人となるのが、巨大なウサギの着ぐるみなのだ。まさに、文字通り、不思議の国ならぬ「恐怖の国のアリス」だが、主人公の父(香川照之)は現実から目を背け、立体絵本づくりに没頭している絵本作家で、その制作中の絵本は「人魚姫」なのだ。「アリス」に「人魚姫」、そうした絵本の世界を、巧みにストーリィに取り込みつつ、この人間の心の奥底の闇を描くドラマは、進行する。

失語症の主人公、キリコは、ある日、弟の大悟が小学校の校庭で飼われていたウサギを、殺すのを目撃してしまう。優しい弟が何故???しかし、弟は夜な夜な、巨大ウサギに連れられて、階段の上の押し入れから、どこかへ出かけていくようになり・・と、まぁ、そんなお話。おっと、あとは観てのお楽しみ。

主人公の心の闇が生み出した迷宮が、やがて現実世界に実体化し始める恐怖・・しかし、それをいわば体現するのが、どこからどう観ても、ホラー・キャラではありえない、ウサギの着ぐるみだというところが、今回のウリだろう。満島ひかりは、相変わらずうまいし、香川照之も、さりげなく、怖い。

出来は決して悪くないのだが、どうしても清水監督の代表作にして、ホラー映画史に太文字で明記されるべき大傑作「呪怨」と比較してしまうのが、こうした大傑作を、しかも、そのキャリアの出発点でつくってしまった人の不幸、というものだろう。

なんだ、「呪怨」より全然、怖くねぇじゃんと、私の隣に座ったカップルの男の方が、映画館が明るくなって、立ち上がる寸前に、吐き捨てるように、そうつぶやいた。