「こんな気がする」ディランを観て第十三弾 ● 2016年4月25日

半世紀以上のキャリアを誇るアーティストのライヴは、通常で考えればグレーテストヒット的な内容になるだろう。同時代を生きた人が自らの人生を照らし合わせるようにしてその時々のヒット曲を聴いて懐かしみ楽しむからだ。しかしディランは違う。かつてのヒットを聴いても直ぐには解らないほど変えて演奏する。そして最近作からの歌を積極的に歌うのだ。今回のツアーでみてみると、この5月発売の新譜を含めた最近の3作から13曲披露、21曲中13曲も近年作だ。誰もの心に刻まれた歌をその思い出通りに演奏すれば観客が喜ぶのは間違いない。しかしそれをせず、馴染の無い新曲と原形を留めないヒット曲という構成なのだ。観客が望むものを演奏する事よりステージと客席との緊張感を生む事でより良いものが・・・だから、ドント・ルック・バックという事か。

1. シングス・ハヴ・チェンジド 
センターでヴォーカル。静かな歌い出しでライヴが始まったが今夜の観客はアツい。徐々に凄みを利かせながら緩急をつけたヴォーカルはコントロールされていて流石だ。

2. シー・ビロングズ・トゥ・ミー 
ディランはセンター。言葉を投げ捨てるように歌うがやがて声を駆使しながら自信に満ちた歌い方になってゆく。自由なハーモニカ演奏がバンドの演奏を覆ってしまうほど大きく迫力がある。

3. ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング
ディランはピアノでヴォーカル。喉の調子が良いようだ。声に強弱を上手くつけながら歌い進む。ディランのピアノが繰り出す同じフレーズにバンドが巧みに合わせながら、この曲独特のグルーヴが生まれてゆく。

4. ホワットル・アイ・ドゥ 
センターでヴォーカル。枯れた味満載。この曲をかような味わいで歌う人はいないだろうと言うような自負があるのか堂々たる歌いっぷり。誰かが乗り移った如きのヴォーカルは素晴らしい。

5. デューケイン・ホイッスル
ディランはピアノでヴォーカル。メンバーによる音を探るような出だしでディランは音を合わせる気など無いかのような気ままなピアノ演奏で始まる。しかし、歌い出しの声は素晴らしい。徐々に声が出て来てバンドを引っ張ってゆくようなヴォーカルを披露した。両足でリズムを取りながらピアノ演奏をしていたが途中で立ちあがって演奏しエンディングを決める。早くも今夜のハイライトだ。

6. メランコリー・ムード
センターでヴォーカル。イントロのインストゥルメンタルが長いこの曲でディランが何をするのかその様子が毎回楽しみだが、なんと今夜は軽くステップを踏んで踊っている。きっとウキウキなのだろう、自分の声を楽しんでる風な歌い方だった。

7. ペイ・イン・ブラッド
センターでヴォーカル。軽く流すような感じで歌い始めるが、凄みを徐々に利かせるヴォーカルとリセリの切れのいいドラムが曲を次第に盛り上げる。間奏時のディランはウロウロじゃなくてヒョイヒョイと言った感じで楽しそうだ。右手を横に出してリセリに合図して曲をしめる。

8. アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー
センターでヴォーカル。自然と心から発するような歌声が素晴らしい。泰然とした様から想像するに余裕があるのだろう。強弱の付け方や気持ちがのっている歌にはハリと力があった。

9. ザット・オールド・ブラック・マジック
センターでヴォーカル。崩して歌うもののテンポよく言葉が飛び出してくる。今夜はコンディションが良いのか後半にかけて自分の歌い方、ディラン節が登場。

10.ブルーにこんがらがって 
センターでヴォーカル。静かな歌い出しで崩してはいるものの一語一語をはっきりと歌う。奔放にハーモニカを吹いた後、ピアノに移って落ち着いたヴォーカルを聴かせる。同じフレーズを繰り返し、自由にピアノの演奏をするディラン。そこから生まれたちょっとした混乱をバンドの面々が見事にまとめ上げる。

今夜は「みなさーん、どうも、ありがとう」、と自然な感じの日本語で挨拶してはけた。

11.ハイ・ウォーター(フォー・チャーリー・パットン)
ディランはセンター。軽い感じで語るように曲を進めてゆく。歌詞で、「エーーーブリウェア」と声を伸ばして歌う部分が広がりをイメージさせる絵画的な表現だった。今夜は、間奏時にウロウロではなくヒョイヒョイと動くのが目に焼きつく。

12.ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミー・ナウ 
センターでヴォーカル。丁寧に正しく、優等生的にディランが歌うからこそ説得力が生まれている。ただ曲の後半にかけて節回しがいつものディランになってきて歌う事を楽しんでいる様が伝わってきた。

13.アーリー・ローマン・キングズ
ピアノ演奏でヴォーカル。軽い歌い出しで淡々と綴ってゆくような感じで曲は進むがやがて荒々しい歌い方になりヴォーカルとバンド演奏が熱を帯びてくる。そうして一つにまとまり素晴らしいエンディングを迎えた。

14.ザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイ
センターでヴォーカル。余裕を持ってゆったりと歌う。声がしっかりと出ているが故の表現は豊かで力強い。かような好演を生んでいるのは、決して出しゃばる事の無いバンドがあってこそだ。

15.スピリット・オン・ザ・ウォー ター 
ピアノ演奏とヴォーカル。軽く歌い始め、淡々と語るように曲を描いてゆく。バンドはそうしたディランを軽快な演奏で支える。ディランの自由なピアノ演奏に応えるチャーリー。いつしかバンドはまとまりをみせながらジャム風な演奏でしめる。

16.スカーレット・タウン 
センターでヴォーカル。崩さずに淡々と歌い始め、曲が進むにつれて凄みを利かせる。チャーリーのギターソロ演奏時にまたしてもヒョイヒョイと動くのは、今夜は体がよっぽど軽いのか。ただ声には芯があって迫力のある出来となった。エンディングでは満足げに両手を広げバンドを制した。

17.オール・オア・ナッシング・アット・オール
センターでヴォーカル。不安げな雰囲気をまとって歌い始まり、寂しげな表情をみせる展開となる。珍しくやや崩して歌っているようだ。チャーリーのギター演奏時に、チャップリンを思わせる無声映画的な不思議な動きが。

18.ロング・アンド・ウェイステッ ド・イヤーズ 
センターでヴォーカル。崩して歌い始まり今夜は観客を挑発するような響きのこもったヴォーカルだ。ノッているのだろう、挑発が説教のようなニュアンスとなり、観客もジッと耳を傾ける雰囲気に。なんと素晴らしい!

19.枯葉
センターでヴォーカル。一語一語に気持ちを乗せて歌うものの、感情過多になっていないところが素晴らしい。特に今夜は適度にドラマチックにすべく声をコントロールしているようだ。

ここで本編を終了、客席からアンコールの拍子が。

20.風に吹かれて
ピアノ演奏とヴォーカル。バイオリンとギターが絡むようにして演奏が始まり、ディランは軽い感じで歌い始まる。語りかけるように歌うのはこの曲に相応しいのだが後半にかけて強弱をつけての歌い方になり、巧みにそれに合わせるバンド。適度な緊張感がこの歌をより良いものにしている。

21.ラヴ・シック
センターでヴォーカル。軽く歌い始めるが、やがて投げやりな感じや強弱をつけながら歌い、声をコントロール。チャーリーのギターが情けない内容の歌を切り刻むような演奏で一層盛り上げる。

最後、ステージ中央のメンバーたち。ディランは観客に一度両手を上げ客席を見回しもう一度両手を上げまた観客を見まわし、去っていった。






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