『戦争プロパガンダ 10の法則』 アンヌ・モレリ
これは珍しく新刊で発売された当時に買った本。と言っても初版は2002年で、自分が買ったのは2015年に新書化された時のものだが。
当然すでに読んでいた本ではあるが、最近もう1回読んだ方がいいなと思って再読した。
流れとしては1928年にアーサー・ポンソンビーという人物が上梓した『戦時の嘘』という本に書かれた<10の法則>を辿っていくというもの。
ここでいう10の法則とは、
・われわれは戦争をしたくない
・しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
・敵の指導者は悪魔のような人間だ
・われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
・われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
・敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
・われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
・芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
・われわれの大義は神聖なものである
・この正義に疑問を投げかけるものは裏切り者である
というもの。戦争プロパガンダというものは、概ねこういう主張で成立しているとポンソンビーは言ってるわけだ。
それを元にモレリは、近代の戦争において、いかに当事国同士が自国の正義と相手国の悪を主張せんがためのプロパガンダを展開していたかを、膨大な数の引用を通して解き明かしていく。
ポンソンビーはイギリス人であり、やはりヨーロッパや中東を舞台にした戦争や紛争が多く例に挙げられているが、この法則がそれ以外の地域で起こった戦争にも当て嵌めることができるというのは容易にわかる。
つまり日清戦争における日本と清であるとか、太平洋戦争における日本とアメリカを考える際にも参考になるということ。
話は飛ぶが、私は若い頃に田中芳樹の『銀河英雄伝説』を読んで、戦争とは権力に守られた人間が始め、その人達の代わりに一般市民が死ぬものだと思った。
今でもそれは一面において真理だと思っているが、その一面の真理が逆説的なプロパガンダにもなるということはこの『戦争プロパガンダ 10の法則』を読むまでは気づいてなかったように思う。
少なくとも近代国家において(一部の独裁国家は除くが)、国家の代表が戦争を望んだとしても、国民の支持が得られなければ戦争は始められない。だから国家は戦争を始める時には、それがいかに正義であるかというプロパガンダを展開し、国民を納得させなければならない。そうして自国の正義と敵国の悪が「証明」されたところで国民は納得し、満を持して開戦するというわけだ。
だとすれば、戦争で死ぬのはやっぱり戦争を起こした人間だということになる。
その本質を見誤ると、平和主義を装ったプロパガンダに騙されることもあるだろうから注意が必要だ。(念の為に付け加えると、銀河英雄伝説の中でもヤン・ウェンリーが同様の指摘をしていた、と思う・・・)
それはさておき、この本はただ引用に目を通すだけでも興味深い。
第二次世界大戦が始まる前、ヒトラーが再三にわたってイギリスやフランスに対して平和を訴えていたことはあまり知られていないように思う。
曰く、
私はチェンバレン(イギリス首相)に対し、ドイツ国民はただひたすら平和を望んでいると保証した
私は独仏関係が平和的で良好な状態であることを望んでおり、そうならないはずはないと思っている。
軍人としての経験により、私はあなた同様、戦争の脅威を熟知しております。こうした心情、経験をふまえ、私は、フランス・ドイツ両国の間に起こりうるあらゆる紛争の可能性を取り除くべく、全力で努力してゆく所存です。
などなど。
勿論その後のヒトラーの行動を知っていれば、これらの言葉の響きはなんともうすら寒い。とはいえドイツと戦った国々はどうだったかと言えば、やっぱり本音と建前を使い分けたプロパガンダを展開している。
例えば第4の法則である「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」というプロパガンダなどが相当にうすら寒いものであることは、学校で習う歴史を知ってるだけでもわかるはず。
こうやって歴史に学べば、今騒がれている北朝鮮問題の本質も見えてくるかな~と思ったりもしたけど、正直あんまり見えてこない。
まだ勉強と洞察力が足りないようだ。