となりのクレーマー
「となりのクレーマー」関根眞一(中公新書)を読んだ。

実際のクレーム処理の実例が多くて、面白かったが

それだけ。あまりコクはなかった。


しかし、このクレーマーと呼ばれる人たちはひどい。

クレームというより、難クセ、言いがかりというべきものだ。


「10年着たブラウスの背中に穴が開いたから修理しろ」と送ってきたり、「2年着た毛皮が虫食った。最初からついてたんだから、弁償しろ」と言ってきたり。


こんなクレームに対応する仕事でも、筆者は「慣れると楽しい」っていうんだから、恐れ入る。


以前読んだ、川田茂雄という人の「ムチャを言う人」という本に出てくる最強のクレーマーの話。


自分自身は一銭も取らずに、数億円の寄付をさせたという伝説の人だ。

この人のは言いがかりではなくて、正義のクレーム、真実のクレームとでも言うべきものだ。


話は某電機メーカーが「トランジスタの永久保証」を打ち出したことから始まる。

そのメーカーは永久保証を謳っておきながら、トランジスタの故障の修理の際には「交換手数料」という

名目で修理代金を取っていた。

今の感覚ならすぐに「おかしい」と騒ぎになりそうなことだけれど、誰も文句を言わないまま、昭和38年

から20年間、この交換手数料は徴収され続けた。


ところが20年経って、初めて「それはおかしんじゃないか」と声を上げた人がいた。

そしてその人の追求を受けた会社も「たしかに消費者を惑わすような表現でした」と認めた。


このクレーマー、当時65歳のおじいさんだった。会社はソニーだ。

どっちもすごい。


当時、トランジスタは歩留まりが悪かった。

ところがソニーは品質の良いトランジスタを作り出し、「永久保証」という広告でPRし、大いに売り上げを

伸ばした。ただ、他より品質が良いとは言え、壊れることもある。

その時に「手数料」という名目で修理代を請求していたのだった。

これにクレームを付けたんだけれど、この人は「社長を出せ!」「責任者を出せ」でなく

「担当者と徹底的に話をする」というやり方で筋を通した。まじめな人なんだろう。


まず、お客さま相談室に電話する。出てきた人と徹底的に話をする。

その担当者が「自分でこれ以上お答えできません」と言って上司に代わる。

するとその上司とまた一から話をする。


マジメな人だったので時間は掛かったが、半年かかって、ついに経営者と話をするところまで行った。
経営者ですよ、経営者。


最後にはソニーが「永久保証と言っておきながら有償修理だったのは、お客さまを惑わせる表現でした」と

認めた。交換手数料として集めたお金を、ソニーは昭和58年当時のお金で約10億円という金額をはじき

出した。


とはいえ、長い間の話だったので、その10億円は本人たちには返せない。


そこで「世の中のめぐまれない社会福祉施設や文化施設に、1年1億円ずつ10年間寄付する」という約束を

した。これですよ、これ。「私」がないというのが、ただのクレーマーとは違う。

その後、ソニーはそのおじいさんの意見を取り入れて、経営に反映させていったそうな。


最強。ソニーもすごい。