今回は浅草ロック座である。僕とツーツーレロレロという漫才コンビを組んでいた大森うたえもんと、ピンの松尾伴内は、師匠ビートたけしに弟子入りした後、‘81年~83年くらいまで、浅草のフランス座に笑いの修業に行かされていた。フランス座とは、浅草のストリップ劇場で、その昔、師匠のビートたけしが修行していた劇場である。その隣りにあったのが「浅草ロック座」。大昔はフランス座は、いわゆるコメディアンの登竜門的存在であったが、僕らが、修業していた頃は、フランス座より既にロック座の方が流行っていた。踊り子さんもフランス座より若いし、劇場も豪華で綺麗だった。 今回、10数年振りにロック座に足を運んだ(因みに、フランス座は今は潰れている)。と言うか、浅草自体が、10年振りくらいで、浅草の様変わりにまずは驚いた。一番驚いたのが、通りにホームレスのおじさんが見当たらないことだった。町並みは、不自然に綺麗になり、昔、浅草演芸場があった場所は「ROX」とかいうビルになっていた。そして、その前に、何と、フットサル場が出来、若者がフットサルに興じているのだ。信じられない! あの浅草にフットサル場、その隣りにユニクロ、マクドナルド、ゲーセンである。ここまで若者化しているとは知らなかった。でも、何か、浅草は無理矢理変わろうとしているようで、ちょっと痛々しく感じられた。浅草は昔通りのアルカイックな浅草でいいのではないだろうか? と思うのは僕だけだろうか? 明るくて、清潔感のある浅草は、ちょっと違和感がある。やっぱり、伝統的で昔ながらの佇まいを今に伝える町、そしてどこかうらぶれていて後ろめたそうな町、それが僕にとっての浅草のイメージである。 変わったと言えば、「浅草ロック座」であった。ロビーのカウンターは、ラスベガスのカジノを彷彿させる。劇場の中に入ってビックリ! まず綺麗なのだ。そして照明が近代的で豪華なのだ。昔、約20年程前のフランス座では考えられない。全てがレーザー化され、恐らくコンピュータ制御されていると思われる照明システムだ。僕は、あの頃、フランス座で照明もやらされていた。あの頃、明りの点いている照明を動かすのに、焼けていて熱いので軍手をつけて動かすのだが、それでも軍手が燃えたことがあった。白色照明の前に、色セロハンを置き、舞台を有色化するのだが、暗い所で作業をするため、紫のセロハンと青のセロハンを間違え、全体を寒寒とした感じにしてしまったり、赤と黒を間違え、舞台を真黒にしてしまい、慌てて取っ換えたり、その度に支配人の岡山さんいこっぴどく叱られた。 ロック座を観て、昔と最も変わったのが、踊り子さんの若さと美貌である。信じられないくらい若くて綺麗な踊り子嬢が踊っている。聞くと、皆、20代で、AVやダンサー、モデル出身者らしい。20年前のフランス座とは、天と地、月とすっぽんである。あの頃、フランス座の踊り子さんの平均年齢は60歳を超えていた。しかも、4人しかいなくて、一人が神経痛やリュウマチで休むと、幕間のコントを1時間くらいやらなければならないこともあった。コントのネタがもたないので、僕が女装してストリップをやったことがあって、何故か、松尾が僕の代わりに支配人に叱られていた。あの頃の踊り子さんの最年長は、「千羽」姉さんという方で、第一次世界大戦の頃は、もう舞台で踊っていたという噂だったので、どう若く見積もっても御歳90くらいである。出番の前には、顔は勿論、全身に、砥の粉と白粉を混ぜた物を刷毛で塗るのだ。僕も何度か塗らされたが、まるで彫刻を白く塗っているか、全身死化粧という感じなのである。全身真っ白になった「千羽」姉さんは、まるで白虎社の劇団芝居のようで、前衛的な趣があるが、実に不気味である。絶対一人で外に出ないで下さいという僕らの忠告を無視し、一度、深夜に向かいの吉野家に、牛丼を食べに行き、若い従業員を気絶させたことがあった。 この「千羽」姉さんが、舞台に上がるのがまた一苦労だった。きちんと歩け無いので、つかまるための手すりが必要なのだ。2階の楽屋から階段を伝って、舞台まで、「千羽」姉さん用の手すりが備え付けてある。いわゆる、老人介護並びにバリアフリー的劇場なのだ。「千羽」姉さんは、腰が曲がっているため、舞台上で、背筋を伸ばして立っていられるのは2分である。2分、音楽を聴きながら直立すると、舞台の奥にある手すりにつかまり、腰を曲げ、休むのだ。どんなストリップなんだ? と思いきや、驚いたことに、この「千羽」姉さんには、ご贔屓の追っかけのおじいさんがついているのだ。戦後まもなくファンになったというそのおじいさんは、「千羽」姉さんが出番のときは、必ず客席に来ている。時々、小さな花束を渡したり、寿司を差し入れするのだが、「千羽」姉さんがそれを受け取るのに数分かかったりする。休みも入れて、出番全体がその受け取る作業で終わってしまうケースも少なくなかった。 それから比べたら、今のロック座は正に天国である。僕が観たのは、金曜日の第1回目(昼12時30分スタート)。にもかかわらず、約150席の半分くらいがうまった状態であった。ストリップが根強いファンが多いのにビックリ。しかも、意外に若い人が多いのだ。中には外国人の方もいたり、きっと誰かの追っかけかご贔屓筋なのだろうが、踊り子さんの一挙手一投足に真剣に目を凝らし、まるで故郷を見つめるように、女性性器を見つめている姿には、男(少年性)を感じた。そういう意味では、礼儀正しい正統派のお客さん達ばかりだった。まぁ、ちょっと残念だったのが、幕間のコントが無いということかな?それにしても、「千羽」姉さんは草葉の陰で、今のストリップ状況をどうご覧になっているのやら…………