(女性活躍担当大臣)

安倍首相は、3日の内閣改造で、有村治子・参議院議員を「女性活躍担当大臣」に任命しました。この人事について、NHKは、「育児と仕事の両立を目指す女性の活躍を支援する内閣の姿勢をアピールするねらい」と評していました。しかし、安倍首相は、何を目指して「女性活躍」を実現しようとしているのでしょうか。

(安倍首相の女性観原点)

安倍首相の政権構想のバイブルとも言える「新しい国へ(美しい国へ 完全版)」(20131月発行、安倍晋三著)を読み直してみましたが、「女性の活躍」については何の記述もありませんでした。関連する記述としては、「しっかりした家族のモデルを示す」ことや「理想とする家族観」があったくらいです。

(安倍首相の「女性活躍」は何のため)

安倍首相が「女性の活躍」を意識するようになったのは、アベノミクスの3本目の矢である「成長戦略」の中でです。首相官邸ホームページでは、『女性が輝く日本をつくるための政策である「待機児童の解消」「職場復帰・再就職の支援」「女性役員・管理職の増加」』を、『持続的な日本の経済成長につなげるための「成長戦略」』と位置付けています。

そこには、「女性自身のための女性活躍」という発想はありません。「経済成長のための女性活躍」や「日本のための女性活躍」という発想が原点にあります。安倍首相が進めようとする「道徳の教科化」が、「一人一人の個人の人格の形成のため」にあるのではなく、「日本や社会に役立つ人を育てる」という発想から出ているのと類似しています。

(選択的夫婦別姓制度の行方)

ところで、現代社会において「女性活躍」のために不可欠と考えられる「選択的夫婦別姓制度」は、安倍政権の中ではどう取り扱われるのでしょうか。

民法を所管する松島みどり法相(「松島」は、結婚前の旧姓です。)は、記者会見で「選択的夫婦別姓」について問われ、「旧姓では銀行口座を開設できないなど、女性が働く中で不便を感じる人が増えている」と語りましたが、「現実的な運用について議論したい」と改善の方法を検討する意向を示したのみで、民法改正への言及はしませんでした。

選択的夫婦別姓制度については、既に1996年の法制審議会の民法改正要綱にも入っていますが、「家族の一体感を損ねる」と言う一部の強硬な反対派議員の存在によって、これまで立法化が進みませんでした。国際的にみれば、夫婦同姓が義務付けられている国は少数ですし、国連の女子差別撤廃委員会は、2009年8月、「選択的夫婦別姓制度を採用する民法改正のために早急な対策を講じるよう締約国に要請する。」と勧告しています。

しかし、やはり、安倍政権の下では、選択的夫婦別姓制度の実現は無理でしょう。というのは、19人の閣僚のうち、安倍首相を含めて15人の閣僚が、選択的夫婦別姓制度に強く反対する「日本会議」国会議員懇談会に所属する議員だからです。「女性自身のために夫婦別姓制度が必要である」という発想は、とても生まれてきそうもありません。

今回女性閣僚に任命された5人のうち、「女性活躍担当大臣」に任命された有村氏の外、高市早苗・総務相、山谷えり子・国家公安委員長の3人と、自民党政調会長に任命された稲田朋美氏も、「日本会議」国会議員懇談会の有力な所属議員です。女性の立場に立って主張すべき人達がこのあり様では、望み薄と言えそうです。

(了)