11日に山口県宇部市で行われた第67回中国地方弁護士大会で、「信託制度が有効に活用できる制度整備を求める宣言」が採択されました。信託は、基本的には、委託者、受託者、受益者の3者で構成されますが、今回の「宣言」は、その中でも、高齢者や障害者を受益者とする、いわゆる「福祉型の信託」を念頭に置いているものです。

1、具体的事例の紹介

分かり易くするため、「福祉型の信託」の一つとして提起される「親亡き後問題」の簡単な事例を設定して、何が課題となっているのかをご紹介したいと思います。

(事例の設定)「年老いたご婦人が、5年前に夫と死別し、一人暮らしをしています。ご婦人は、夫の残してくれた賃貸アパ-トの家賃収入で生活費をまかなっていますが、施設に入居している知的障害のある娘さんがいます。ご婦人は、自分の判断能力が低下した時のこと、自分が死亡した後の娘さんを心配しています。」

(ご婦人の希望)「ご婦人は、自分の持っているアパートを誰か信頼のできる人(A)に財産管理(修理や建替えも含む。)してもらって、①自分か生きている間は、Aから自分の生活費の支給を受けることとし、②自分の死後は、Aから障害のある娘さんに生活費の支給がされることとし、③娘さんの死後は、娘さんが世話になった施設にアパートを贈与することにしたい、と思っています。

(信託の使い方)以上のような事例では、「ご婦人が委託者となって、信託銀行などを受託者として、アパートを財産管理してもらうと共に、アパートから上がる収益についてはご婦人(ご婦人が生きている間)又は娘さん(ご婦人の死後)を受益者として生活費を支給してもらって、娘さんの死後はアパートを施設に贈与する内容の信託契約を結ぶこと」が、理論的には考えられます。

2、課題の所在

 最大の課題は、福祉型の信託においては、「受託者」となる「信託の担い手」が極めて限られることです。現在の信託の主要な担い手は信託銀行や信託会社ですが、彼らは、一般市民が所有するような比較的小規模な不動産等は管理コスト等の問題があることから、上記のような信託はあまり引受けていません。上記のような「福祉型の信託」でも引受ける新たな「信託の担い手」が求められています。

3、これまでの課題への取組み

 この課題については、今から約7年前の平成18年11月の信託法の全面改正時に、衆議院と参議院の法務委員会で概要次のような附帯決議が行われています。すなわち、「来るべき超高齢化社会をより暮らしやすい社会とするため、高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託については、特にきめ細やかな支援の必要性が指摘されていることにも留意しつつ、その担い手として、弁護士、NPO法人、社会福祉法人等の参入の取扱い等を含め、幅広い観点から検討を行うこと」が政府と関係者に対し要請されています。

4、これからの取組みと今回の「宣言」

 しかしながら、あれから7年が過ぎようとしているのに、政府や関係者による「検討」は、全くと言っていいほど進んでいません。このような事態を踏まえて、今回、次のような内容の「宣言」が出されました。この宣言では、福祉型の信託の利用が進まないもう一つの原因である「信託に関する税制」の見直しも併せて取上げていますが、今後、政府を含めた関係者において精力的な取組みがなされることを期待したいと思います。

 「信託制度が十分に活用できる環境を作り出すためには、①一定の条件の下で、弁護士、NPO、社会福祉法人等による営業としての信託の引き受けが可能となるような信託業法の改正を行うとともに、②信託制度の活用を阻害しない税制を構築することが必要である。よって、中国地方弁護士会連合会は、国に対し、信託業法及び信託税制の改正等の制度整備を求めることをここに宣言する。」

(了)