日本時間の昨日未明(米国の現地時間では20日正午)、バラク・オバマ氏が、第44代米国大統領に就任しました。オバマ大統領は、47歳の若さだけでなく、黒人初の大統領でもあり、米国国民のみならず、世界の多くの市民が「チェンジ(変革)」を期待しています。どのような「チェンジ」がこれから起こるのか、オバマ大統領の選挙戦、就任演説等を通して考えてみたいと思います。

(どんなアメリカになるのか)

 オバマ大統領は、その就任演説で、「自分(オバマ)が黒人初の大統領である」ことに直接言及することなく、「私は、・・・我々の祖先が払ってきた犠牲を心に留めながら、今日ここに立っている。」と表現しました。これは、オバマ大統領が、選挙戦を通じて、幾度となく「アメリカよ」と呼び掛け、「『リベラルなアメリカ』や『保守的なアメリカ』などなく、あるのは『アメリカ合衆国』。我々は一つの国民だ。」と演説し、米国の一体性を訴えてきたことに通じるものです。

 オバマ大統領は、就任当初から、ブッシュ大統領の時代に築かれてしまった「負の遺産」、即ち、①イラクとアフガンでの2つの戦争や、②国民生活における貧富の格差の拡大、③サブプライム・ローン問題から発生した金融危機と経済危機 に立ち向かっていかなければなりません。米国がこの「負の遺産」に対処していくために、オバマ大統領は、多くの米国国民の立場を超えた支持を得て、国民が一体となることを求めたのだと思います。

 とは言え、理想を掲げるだけで問題が解決されるわけではありません。オバマ大統領は、演説の巧みさ、上手さから想像しにくいかもしれませんが、具体的な課題については、現実主義者だそうです。オバマ政権での閣僚人事などを見ても、その一端がうかがわれます。以下、もう少し具体的政策課題について見てみます。

(国際関係はどのようになるのか)

 オバマ大統領は、ブッシュ政権のゲーツ国防長官を留任させました。そして、①イラクからは16ヶ月以内に米軍が撤退する、②アフガニスタンには兵力増強によって安定をもたらすとし、就任演説でもそのことを示唆しています。しかし、このうち、アフガニスタンへの増派については、専門家の中にも反対があります。「テロ活動が多発しているアフガニスタンとパキスタンの国境地帯で抗争停止合意をもたらすためには、増派はむしろマイナスだ」ということからです。

 また、就任演説の中では、テロリスト達に対して呼びかける形で、「我々は、お前達を打ち破る」と言っている点も気になります。身に差し迫った危険に武力で対処することは止むを得ないとしても、テロを根絶するためには、テロの根源となっている貧困の撲滅や、「恨みの連鎖」を断ち切っていくための相互和解が必要であることを、オバマ大統領には忘れないで欲しいと思います。この点では、日本の役割も期待できるのではないでしょうか。

 オバマ大統領は、核軍縮問題についても、就任演説の中で「古くからの友やかつての敵と共に、核の脅威を軽減するためたゆまず努力をする」と言っています。08年7月の演説で「米国が核兵器のない世界を望んでいるというメッセージを世界に示す時が来た」と言っていたのより少しトーン・ダウンしたようにも思いますが、先ずは、今年期限が切れる米・ロの第一次戦略兵器削減条約後の核軍縮交渉で、オバマ大統領がどう動くか注目したいと思います。

(アメリカ経済は立ち直れるのか)

 昨年来の米国の経済危機に対処するため、オバマ大統領は、就任演説の中で「大胆かつ迅速な行動が求められている」として、道路、橋、配電網、デジタル通信網などの公共事業、医療分野のIT高度化、自然エネルギー投資など積極的な財政政策を採ることを表明しました。この方針は、同じく就任演説の中にある「政府が大きすぎるか、小さ過ぎるかではなく、機能するかが問題だ」との認識に基づいて示されたものです。

 その上で、経済関係の閣僚級の人事配置は、工夫を凝らしたものになっています。「経済回復諮問会議」の議長に清廉潔白さで評価されるボルカー・元連銀議長を、「国家経済会議」議長に労働者の権利擁護のための規制強化を主張するサマーズ・元財務長官を、財務長官にブッシュ政権時代の金融危機に対処したガイトナー・ニューヨーク連銀総裁を、通商代表部代表に自由貿易派のカーク・元ダラス市長を配置し、現実重視の姿勢を示したと言われています。

 1929年の株価暴落に端を発した30年代の大恐慌は、民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領の「ニュ-ディール」によって、雇用と景気の回復が目指されました。オバマ大統領の上記の政策も「ニュー・ニュ-ディール」と呼ばれていますが、その政策の成果が、いつ頃、どの程度出てくるか、世界の関心が集まります。