「老いの入り舞い 麹町常楽庵月並の記」松井今朝子 文芸春秋
文頭の説明にこう書かれている
入り舞いとは、舞い手が退場する寸前にもう一度舞台の真中に引き返して華やかに舞ってみせるという事
年寄りが最後に花を咲かせる姿が「老いの入り舞い」と呼ばれたりもする
著作に歌舞伎役者を題材にした作品もある作者らしい題名ね
今回は、役者は登場しない
定町廻り同心に昇格したばかりの間宮仁八郎と庵に住む元大奥勤めの庵主のとの推理話
短編になっているが、登場人物はつながっている
庵には商家の娘などが行儀見習いとして通っており、近くに住む山田淺右衛門は時折、庵を訪ねて来たりする間柄
この山田淺右衛門とは、首切り人斬りの異名をとっているが、小塚原での試し斬りや小伝馬町の牢屋敷で斬首をするという血なまぐさい仕事ばかりではなく、一介の浪人の身分ながら将軍家の御様(おためし)御用を務める事もあるため刀剣の鑑定などの依頼で諸大名家に出入する時は下にも置かぬ扱いで迎えられる存在なのである
この淺右衛門のキャラクターがなかなか良い
前半の話での事件は、市井で起こるような内容で少し退屈するが、徐々に大きな事件へと進んで行き最後は庵を襲う暴漢に立ち向かう老女たち、救出に向かう間宮や山田など盛り上がって終結する
間宮の下で働く岡っ引き文太やきれ者の岡っ引き赤坂の源蔵、庵主の元に仕える女中などいいキャラクターの登場人物もいるので続編が作れない事もないかな?
最後まで思わせぶりなまま解明されなかった「間宮仁八郎の出生の秘密と庵主との関係」は、勿体ぶりすぎて興ざめ
まあ、あの人そっくり・・とか、そんな事ばかり言っている
あの人って誰よ?
読んでいると、何となくは分かるけど、その人自体の説明があまりされていないから「どこが、どんな風に似ているのか?」が分からない
ちゃんと書いちゃった方が良かったんじゃない?