「秀と母」
第三章 第60話 母のお雑煮
2011年1月9日
母が作ってくれたお雑煮
2011年。この年は僕にとって前厄の年だった。厄払いと母の健康祈願をするため、父と文京区の根津神社へ行った。
2011年1月9日
天気は晴れ。根津神社はまだお正月の雰囲気が残っていた。初めての厄払いは自分のためというよりは、母の病をお祓いしたい気持ちだった。
厄除けと家内安全・健康をご祈祷してもらい清められた。玉串作法は初めて。厄払いしてすがすがしい気分になった。
神社でいただいたお札とレトルトのおこわを母のお土産に持ち帰る。そう言えば、まだ退院祝いのお赤飯を食べていなかった。谷中で買った小豆もしまってある。お赤飯をやろうやろうと思って、そのままにしてあった。このおこわはちょうど良いタイミング。しかもレンジでチンの簡単レトルトパック。料理をほとんどしない男所帯の僕らに「お赤飯を作る」という発想は思いつかなかった。簡単にレンジでチン。とにかく母におこわを食べさせたい。母はおこわが大好きだ。
家に帰ると早速、母におこわをプレゼント。
「ありがとう。じゃあ、お昼にこれ食べようかな」
喜んでくれる母。レンジで温めてごま塩をふりかけて食べてもらう。パックのおこわの味が気になった。
「どう?あまり美味しくない?」
「まあまあ美味しいよ」
ちょっと笑いながらも気を使ってくれる母。
――うん、きっと普通の味なのだろう。レトルトでごめんね。
それでも母に久しぶりにおこわを食べさせてあげられて良かった。
「秀郎(ひでお)、お餅があるからお雑煮食べる?」
母からの嬉しい言葉。今までは当たり前のように毎年聞いてきたこの言葉が、この年はとても嬉しくありがたい。
「食べる食べる~!」
母が台所へ立つ。お正月に残った鶏ガラで出汁を取り、母が味付けして自ら作ってくれた。
「お父さん、お餅を焼いてくれる?」
母の頼みで父がお餅を焼く。母が鍋に火をかけ、焼いたお餅を入れる。煮えてくると出汁の良い香りが漂う。母がよそってくれたお雑煮。具は大根と人参、里芋、鶏肉。
――もう見るからに美味しそうだ!
お雑煮の大好きな食べ方は鰹節を入れる。お正月の残りで大ぶり花鰹が残っていたので、手でたくさん取って入れる。汁に浸ると鰹節が揺れ動く。これを見るといつも言う言葉。
「お母さん、『生きてる』凄いよ!」
「凄いね」
微笑む母。
「いただきまーす!」
と、食べる前に携帯でパシャッと撮る。
「撮らなくていいよ」
笑う母。今度こそ、
「いただきまーす!」
お正月の時は父が作って母が味付けをした。今回は母が自ら作ってくれたお雑煮。出汁が効いて醤油もちょうど良い味加減で美味しい。母の味だ。お餅にからむ汁の絶妙な美味しさ。
「お母さん、美味しいよ~!」
「そう?良かった」
喜ぶ母。もちろんすぐおかわり。二杯目もお餅二個入れてもらう。お正月の再現。
毎年当たり前のように食べて来たが、この年の母のお雑煮は格別に美味しかった。母が疲れやすい体調の中、自ら作ってくれた。こんなにも嬉しくありがたく美味しい。
これが母の作る最後のお雑煮となった。
――できれば、もう一度食べたかった。
思い出に残る母のお雑煮。
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