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 のど元過ぎれば熱さ忘れる、ミス判断を繰り返す天然ゴム生産国
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<旧正月で機能不全に陥ったコモディティ市場>
2019年の春節(旧正月)は2月5日であり、金融市場の場合だと4~8日とその前後の土日が概ね連休になる。カレンダーに基づく季節要因なので毎年の恒例行事だが、この時期になるとコモディティ市場における中国の存在感の強さが再確認できる。
 
 
従来だと、旧正月前の在庫手当が相場をサポートし、旧正月中の買い付け停止が相場を圧迫するといった文脈で議論されたが、近年だと旧正月前に目立った動きは見られない一方で旧正月中はマーケットが流動性を欠く傾向が強い。今年も中国の旧正月入りと前後して、貴金属、石油、穀物などの幅広いコモディティ市場が動意を欠いており、欧米の市場関係者も中華圏の旧正月に強引に付き合わされている印象が強い。
 
 
もちろん、前週に米連邦公開市場委員会(FOMC)、米中通商協議、1月米雇用統計と重要イベントを一気に消化した反動もあるのだろうが、今週のコモディティ市場は全般的に持高調整に終始しており、市況解説に困るような不規則な値動きも目立つ。
 
 
 
東京商品取引所(TOCOM)の場合だと、天然ゴム相場の売買の低調さ、値動きの不規則化が特に目立っている。RSSの1月の平均出来高は1日当たり7,667枚と決して多くなかったが、今週は4~6日の平均で4,491枚であり、流動性の低下が深刻化している。天然ゴム市場において中国が最大のプレイヤーであることは周知されているが、いざその存在が消えた時に、重要性が再確認されることになる。今週は中国への依存度が高い銘柄ほど、ロジカルな議論ができる状況にはない。
 
 
 
<値下り確率高く、あとはタイミングの問題>
さてTOCOM天然ゴム先物相場であるが、昨年11月21日の1㎏=151.00円で底入れした後、1月21日の193.40円まで、ちょうど2ヵ月で最大42.40円(28.1%)の急伸となった。しかし、その後は1月29日の175.10円まで急反落し、180円水準に新たなボックスを形成しつつあるのが現状である。
 
 
昨年と同様に生産サイクルが生産期から減産期にシフトする動きと連動して安値修正の動きが強まったが、その賞味期限が2ヵ月程度だった訳だ。昨年は11月21日の底入れから翌年1月16日のピークアウトまで1カ月も持たなかったことを考慮すると、今季の反発力は健闘したと評価できる。ただ、これも11月の底入れまでの下げ幅が大きかった影響が大きく、2018年1月16日のピークが216.30円だったのに対して、今年1月21日のピーク193.40円は、値位置としては10.6%下がっている。17年11月の安値と18年11月の安値を比較すると、値位置は19.6%切り下がっている。年末・年始を挟んでゴム相場は強力なリバウンドを見せたが、マクロなダウントレンドの中での調整高との評価が基本になる。
 
 
月足でみると、昨年12月の23.20円高、今年1月の7.60円高と2ヵ月連続の上昇であり、年間で最も上昇する傾向が強い12月と1月には季節トレンドに沿う形の上昇相場を実現した。しかし、過去10年の平均だと2~6月は前月比マイナスになっている。しかも、時間の経過は値下りリスクを高める方向性になり、6月だと過去10年でプラスになったのは14年の1度しかなく、平均で12.96円安になっている。値下り圧力の中心が2月か3月か4月か…といった議論はあるが、季節要因で上昇した相場が季節要因で下落する局面に移行しつつあるのが現状である。上昇トレンドにおける修正安ではなく、基調転換の打診局面との評価が求められる。
 
 
季節要因が重視される相場展開が続いているだけに、確率論的な視点ではここからの買いポジション保有はリスクが高い。既に期先は7月限だが、今月の2月限納会で8月、来月の3月限納会で9月と、期先限月は生産期・増産期へと着実に移行する。この過程において、ゴム相場は減産期入りと連動して当限主導で上昇するのではなく、生産期に向かう期先主導で下落するのが、実現可能性が高いパターンになる。
 
 
当先スプレッドをみても、1月22日の21.90円が逆サヤ(期近高・期先安)のピークであり、2月5日終値だと7.90円の逆サヤに留まっている。当限に対する減産期のプレミアム織り込みが一巡し、季節要因に基づく上昇相場は終わっていることを強く印象付けさせる。昨年の場合だと小幅順サヤ(期近安・期先高)だったが、今季も期先より期近限月の方が、下げ幅が大きくなっている。
 
 
 
<生産国の介入見送りはミス判断>
こうした季節性に基づくダウントレンドを回避するためには、生産国が介入する必要がある。即ち、減産期から生産期の移行時期に、増産ないしは出荷増加圧力を抑制するような施策を打ち出せば、季節性に基づく下落圧力を緩和ないしは阻止することが可能になり得る。実際に、昨年以降はこの視点でタイ、インドネシア、マレーシアは市況対策導入の方向性で検討を続けていたが、未だ合意には達しておらず、寧ろ介入議論そのものが立ち消え状態になりつつある。
 
 
昨年12月時点では年末までに市況対策をまとめるとしていたが、何ら動きは見られなかった。1月にはタイ農業当局が今後5年をかけて作付面積を43%、生産量を33%削減する計画案を公表し、1月中旬から下旬に生産国会合で国際協調を行いたいとしていたが、こちらも何ら動きは見られなかった。会合そのものは幾度となく開催された模様だが、少なくとも政策介入が公表されるようなことはなく、この問題は何ら情報が出てこない状況に陥っている。
 
 
何も公式発表がないために想像の域を脱しないが、マーケットの評価としては、「またか…」となる。というのも、天然ゴム生産国は財政面での制約などから介入には消極的であり、できればゴム需給・価格管理に積極的に取り組むようなことは回避したいとの思惑がある。それでもコスト割れ警戒される状況にあっては、農家の保護のために介入せざるを得ないとの判断に傾いていたが、昨年11月から今年1月のゴム相場反発を受けて、介入意欲が一気に後退してしまっている模様だ。
 
 
過去に何度も繰り返されていることだが、介入の可能性を強く示唆する口先介入でゴム相場が上昇すると、生産国は介入そのものを見送る傾向が強い。足元のゴム相場の安値修正は、あくまでも季節性に基づく一時的な上昇圧力であり、既に消費地と産地の双方でゴム相場の値下り傾向が強まる中、本来であればいつでも介入に踏み切ることができる体制を誇示し、「減産期明け後も需給は緩和しない」との評価を確立する必要があったはずだ。しかし、ゴム生産国は「のど元過ぎれば熱さを忘れる」の格言通り、ゴム相場が上昇してしまえば介入の必要はないとの短期目線の議論しかできていない。
 
 
完全な政策ミスと評価しているが、今後は期先が生産期への移行を織り込む動きが強まるリスクを抱える中、ゴム市場は無為無策で需給緩和リスクに直面することになる。改めてゴム相場が値下がりすれば、再び介入議論が活発化するのだろうが、介入を口に出しつつも実行しない一種の「オオカミ少年」と化す中、マーケットの信頼感を取り戻すのは難しくなっている。恐らく夏場に向けて政策介入の議論が蒸し返されることになり、今回の介入を見送ったことを後悔することになろう。何度も繰り返されている失敗を、今年も再現することになりそうだ。
 
 
 
<中国の自動車市場刺激策は期待薄>
一方、市場介入以外に存在するもう一つの上昇シナリオが、中国の景気刺激策だった。2018年の中国新車市場は28年ぶりの前年比マイナスになったが、大規模な刺激策を打ち出すことができれば、タイヤ需要の底上げも可能なためだ。
 
 
その意味では、1月29日に中国政府が新車買い入れに対する補助金交付などを決定したことは注目に値する。排ガス規制対応車、小型車への買い替えなどに補助金を交付し、自動車市場を刺激する。中古車取引の減税も、買い替え用タイヤ需要を創出する可能性がある。
 
 
しかし、中国では2015~17年の小型車減税で需要の先取りを行ってきたばかりであり、マーケットは需要刺激効果を疑問視している。全く効果が存在しないということはないだろうが、景気減速で消費環境も悪化する中、新車販売の大幅な上振れは想定しづらい。しかも、自動車市場の減速は中国に限定された問題ではなく、仮に中国で多少の需要が喚起されても、需要環境に対するネガティブ評価は払拭できないとの冷静な見方が大勢を占めている。
 
 
生産国の政策介入の議論が立ち消えになり、有効な需要刺激策を打ち出すことも難しい状況になる中、季節トレンドに沿う形でのダウントレンド形成が基本になる。どのタイミングで下げが本格化するかの判断は難しいが、例年の季節パターンからは170円割れ、更に160円割れと比較的大きな調整リスクを想定しておく必要がある。
 
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【発行者情報】
マーケットエッジ株式会社
代表取締役 小菅 努
 
東京都中央区日本橋蛎殻町1-18-1 4F
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