What's Entertainment ?

映画や音楽といったサブカルチャーについてのマニアックな文章を書いて行きます。


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富田克也監督『サウダーヂ』を観た。その感想を書きたい。


エグゼクティブ・プロデューサーは笹本貴之、プロデューサーは伊達浩太朗・富田智美、脚本は相澤虎之助・富田克也、撮影は高野貴子、編集は富田克也・高野貴子、録音・音響効果は山﨑巌、助監督は河上健太郎、スチールは廣瀬育子。制作は空族・『サウダーヂ』製作委員会。


なお、本作は自主製作であり、登場する役者もそのほとんどが山梨在住の一般生活者たちである。タイ人ホステスも暴力団の組長も、ガチでリアルなのだ。


35mmの夢、12inchの楽園


それでは、ストーリーを紹介しよう。
例によってネタバレするので、お読みになる方はご注意頂きたい。

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山梨県甲府市。人通りもまばらな中心街のシャッター通りにも不景気の波は押し寄せている。山王団地には、日系ブラジル人たちがひしめき、飲み屋に繰り出せば、タイ人ホステスが媚びを売る。フラストレイトする若者たちが夜な夜な集まるクラブにも、日本人とブラジル人とで溜まり場やシマがはっきり色分けされている。そこには、人種的コミュニティが厳然と存在している。

この町の民間職安を経営するのは日系ブラジル人で、日本人ですらブラジル人の彼に仕事を斡旋してもらっている。


年金暮らし間近の社長が細々と経営する土建屋。正社員は社長の息子、河瀬(川瀬陽太)、堀精司(鷹野毅)の三人。他は、現場の規模に応じて派遣を雇っている。工事現場には、常に移民やらフリーターやら素性の知れない男たちが集まる。



35mmの夢、12inchの楽園


今回の現場に派遣されたメンバーの一人、保坂(伊藤仁)はこの現場に派遣される以前は、しばらくタイで暮らしていたという。その時のアダ名は「ビンちゃん」。保坂は、土方一筋の精司と意気投合する。精司は大のタイ人好きだ。


35mmの夢、12inchの楽園


精司にはエステシャンをしている恵子(工藤千枝)という妻がいるが、夫婦仲はぎくしゃくしている。子供を欲しがる恵子とは裏腹に、彼は子作りと拒否していた。その一方で、精司はタイ人ホステスのミャオ(ディーチャイ・パウイーナ)に入れあげている。


35mmの夢、12inchの楽園

35mmの夢、12inchの楽園


精司の現場に、ビンの他にもう一人今時の若者バイトが派遣されて来る。HIPHOPグループ、アーミービレッジのクルーで作詞・作曲も手がける天野猛(田我流)だ。猛は、夜は地元のライブハウスをヒートアップさせるこの町の顔だが、彼の家族は悲惨を極めている。


35mmの夢、12inchの楽園



両親は自己破産、家族全員がタコ部屋の如くゴミの溢れた狭いアパートに身を潜めて暮らしている。しかも、当の両親はパチンコにのめり込んで現実逃避。弟はいささか頭がイカれた電波系だ。

仕方なく猛はバイトしているのだが、土建屋のおっさんたちが猛にはことごとく合わない。一度誘われて精司、ビンとタイ人パブに行ったものの、盛り上がる二人とは裏腹に猛は心底うんざりする。

現場も不景気で、地盤は悪いは水は出るは什器は故障するは、で散々だ。しかも、仕事がなくなり社長が営業回りまでする有様だ。


閉塞感漂う町は世の中の表。その裏では、魑魅魍魎が蠢いている。

天野幸彦(野口雄介)という男は、会社のモデル(亜矢乃)と共に怪しげな水ビジネスを始める。町に流れる川から水を汲み出し、モデルに呪文を唱えさせてそれを「深層水」として高額で売りさばいている。

天野は、部下を使って「深層水」を町の至る所に売り込み、定期的に派手なパーティを開いて客を獲得している。彼は、町の政治家ともコネクションを持っている。

あるいは、ビンも出入りするシャッター通り沿いの店。ひと癖あるマスター(中島朋人)が経営するこの店では、裏でクスリを捌いている。さらには、地回りのヤクザも幅を利かせている。

その一方で、日系ブラジル人コミュニティのチンピラ達が、ギャングスターを気取ってHIPHOPを演っている。デニス(デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ)率いるスモールパークは、この町の日系ブラジル人たちのヒーローだ。



35mmの夢、12inchの楽園


精司は、恵子との価値観がずれて行くことに苛立っていた。恵子はエステのお客に勧められて「深層水」を購入するようになる。そして、天野の会のパーティに精司を無理やり連れて行く。そこは俗物の集まりで、精司はいよいようんざりするがセレブに憧れる恵子はすっかり目を輝かせている。

会には選挙に出馬する政治家がテーブルを回り、恵子は嬉々としてその胡散臭い先生に頭を下げた。


35mmの夢、12inchの楽園


これを機に、精司はいよいよミャオとの関係にのめり込んで行く。


土方仕事も減り、いいクスリも手に入らず、ビンはこの町に愛想を尽かし始める。そろそろ、潮時かもしれない…とビンは考えている。

社長はついに会社を畳むことに決め、そのことを河瀬と精司に伝える。

不況は、日系ブラジル人たちにも直撃する。次々に山王団地を出て、彼らは祖国に帰って行く。


猛は、以前付き合っていたまひる(尾﨑愛)と再会する。まひるは、ある男と別れてから酷く落ち込んで一時は東京に行っていた。現在はこの町に戻っており、カポエラ道場を手伝っていた。

見違えるようにポジティヴになっているまひるに、猛は目を丸くする。まひるが猛に声をかけたのは、自分が主催する日系ブラジル人コミュニティのパーティにアーミービレッジを出演させたいからだった。



まひるのオファーを受けた猛だったが、日系ブラジル人たちばかりのクラブは完全なアウェーだった。誰一人自分たちのラップを聴かないと憤る猛は、次に出たスモールパークに憎悪の念を抱く。
人種を越えた共生とLove&Peaceを無邪気に信じるまひると、彼らに排他的なスタンスを固める猛。

35mmの夢、12inchの楽園



いつの間にか姿を消したビン。精司は彼の行きつけの怪しげな店のマスターから、ビンが前科者でまたしてもしょっぴかれたことを知らされる。

恵子はいつの間にか政治家の後援会に入って、怪しげな会への関係を深めている。
精司はいよいよ恵子に愛想を尽かせ、ミャオとの関係にすがろうとする。ミャオと一緒に温泉旅行に出た精司は、彼女が故郷の家族を養うために日本国籍を取ろうとしていることに猛反対。二人の中は険悪になる。


町に戻った精司は、ミャオにタイで暮らそうと持ちかける。自分が土方してミャオの家族を養うから…と。しかし、タイの現実の厳しさも知らず能天気なことを言う精司に、ミャオは心底呆れ、怒りを覚える。

精司は、この町にもタイにも自分の居場所がないと感じ、さらなる苛立ちがマグマのように腹の中で煮えたぎる。


猛は、どん詰まりの自分の生活、アーミービレッジの他のメンバーとの価値観のずれ、まひるとの分かり合えなさ、その怒りの矛先を全て日系ブラジル人に向ける。そして、猛にとっての明確な敵はスモールパークのデニスだった。


昼下がりのシャッター通り。デニスの後をつけて来た猛は、手に持った出刃包丁でデニスを刺殺した。その後、猛はアーミービレッジのメンバーを招集すると、自分の弟を頼むと頭を下げた。

そして、自分の携帯で警察に自首を申し入れると、その場に駆けつけた警官に逮捕される。


最底辺でいくら精司・ビン・猛が行き詰まり、別の場所に運ばれて行こうとも、この町の閉塞と憤りは、相変わらず今日も蓄積して行く…。


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この作品は、自主製作というスタンスでなければ撮ることが出来ない映画である。

ストーリーテリングは何とも荒っぽいし、地元の素人を役者代わりに使っているから、演技にしてもプロフェッショナルな仕事とは言い難い。

数人の職業俳優もキャスティングされてはいるが、基本的には「空族」特有の製作姿勢が貫かれている。


35mmの夢、12inchの楽園


町にたむろするのは疲れた人々、怒りを腹に溜める人々、幻想にすがりつこうとする人々…。その誰もが、見えない自分の明日に戸惑い、苛だち、不安を隠している。

映画自体を見れば、散文的な情景167分間ひたすらスクリーンに映し出される。しかし、不思議なことにこの作品は一切ダレることなく、ねじ伏せるような力で観ている者の心を鷲掴みにする。まさしく、圧倒的な映画力が漲っているのだ。


その一つの要因は、この町のリアルな生活者たちを使って作品を作り上げたことにある。演技的には素人であっても、彼らにとってここで描かれているのは、まごうかたなき彼らの現実に外ならないのだから。

そして、演技的バランスで映画を引き締めるのが、川瀬陽太のプロフェッショナルに抑制された見事な演技である。


主演の鷹野“リアル土方”毅や伊藤仁の面構えだけでも最高だと思うが、田我流の終始不貞腐れた表情がいい。

35mmの夢、12inchの楽園

35mmの夢、12inchの楽園



そして、彼が率いる地元のHIPHOPバンド、stillichimiyaの歌とライブシーンが本当に最高である。この作品にこのライム、という説得力が抜群なのだ。

彼らの叫ぶ言葉が、この映画のサウンドトラックなのだ。


しかし、個人的にこの映画の白眉は、シャッター通りに集まる人をかき分けて歩く精司を映し出したシーンである。このシーンで流れるBOφWY「わがままジュリエット」は、最高の映画的カタルシスを提供してくれる。


35mmの夢、12inchの楽園


どう足掻いたところで、どうしようもない現実はどうしようもないままである。それは、土方であろうと、チンピラであろうと、日系ブラジル人であろうと、タイ人ホステスだろうと、変わらない。

しかし、そんな現実と反目しながらも、我々は今日をそしてやって来るはずの明日を生きなければならないのである。誰もが同じように。

濃密に語られる167分は、エンドロールで延々と流れるミャオの眩い踊りで浄化される。


映画的な時間と向き合いたい全ての人に、自信を持ってお薦めしたい作品である。

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