みなべ町の千里の浜には、毎年200頭以上のウミガメが産卵のために上陸します。その上陸数は本州で最も多く、長い間ウミガメの保護活動が行われてきました。
みなべ町は今年「ウミガメ保護条例」を制定。千里の浜の近くには調査の拠点となる「みなべ町千里ウミガメ館」が建てられました。
どのような取り組みが行われているのかを知るため、今回は現地で取材してきました。初めてのウミガメの産卵、とても楽しみです!
◆ウミガメの調査活動
ウミガメは毎年5月から8月の間、千里の浜に産卵にやってきます。時間は夜8時から明け方までの間で、日付が変わるころまでがピークだそうです。
産卵の時期は調査員が浜の近くに常駐し、ウミガメ保護のための様々な調査を行っています。さらに保護活動として、ウミガメの卵を外敵から守るネットを設置したり、産卵の見学を希望する観光客への指導と案内を行っています。調査の正確性を保つため、期間中は毎日夜通し歩いて調査しているそうです。
「みなべウミガメ研究班」、「みなべ青年クラブ」の有志が交代で調査していますが、それだけでは人手が足りないため、NPO法人日本ウミガメ協議会を通じてボランティアの学生を受け入れています。
僕がお会いしたのは大阪の専門学校で動物について勉強している学生たちでした。彼らは1週間から10日間みなべに滞在し、毎日夜から明け方まで調査をしています。そして昼ごろまで寝て、また夜8時から調査を開始します。食事も自分たちで作っているんだとか。
かなり大変な調査だと思いますが、何人もの学生がボランティアで来てくれているそうです。都会で暮らす学生にとって、波の音が聞こえ続けるこの場所で過ごすことはとても新鮮なのかもしれません。
◆産卵のプロセス
上陸したウミガメは、決まったプロセスで産卵をします。
まず産卵の姿勢を安定させるために、周りの砂をどけて体が隠れるくぼみを作ります(「ボディーピット」と呼ぶそうです)。それから後足で数十cmの穴を掘ります。
普段は海中で生活しているウミガメにとって、この作業はかなり過酷なことだそうです。それでも卵を危険から守るために、後ろ足が届かなくなるまで深い穴を掘ります。
穴を掘っているうちに岩が出てきたり、産卵に適していないことが分かるとウミガメは別の場所に移動します。そしてまたボディーピットからやり直すのです。
一晩のうちに何度も場所を変え、結局見つからずに海に帰ってしまうウミガメもいるそうです。
僕が行った日の前の日は、一晩でウミガメが6頭上陸したものの、そのうち産卵を行ったのは1頭のみ。
産卵が始まるまではウミガメは警戒していて近づけないので、観察できるかどうかは運次第なんだとか。何回か来てやっと見られる人もいるらしいです。
産卵が始まったら教えてくれるとのことなので、「千里ウミガメ館」の待合室で待つことに。
待つこと2時間。諦めかけたその時、産卵が始まったとの連絡が。調査員の学生の案内のもと、急いで真っ暗な浜辺を歩き、ウミガメの元へ向かいました。
◆生命の神秘にふれる
10分ほど砂浜を歩き、ポイントに辿りついた時、ウミガメはちょうど卵を産み落としているところでした。
調査では、ウミガメの上陸と産卵の回数を計測し、産卵を行った個体の大きさを測定します。また産卵に来たウミガメには標識が取り付けられ、個体の識別などを行っています。このことで、「何年か前にも一度来ている」などが分かるそうです。
その後ウミガメは、卵が他の動物に食べられることのないよう、「カモフラージュ」という行動をとります。前足と後足を器用に使って砂を飛ばし、産卵巣を隠していくんです。
産卵を終えたウミガメは海に帰っていきます(「帰海」)。この時ウミガメは明るい方向を目がけて進んでいくため、街の光があるところではそちらに反応してしまうそうです。
光がほとんどなく月明かりで海が輝いているところでのみ、無事に海に帰ることができるんだとか。
産卵を終えて疲れ切っているウミガメ。休憩しながら少しずつ海に帰っていく様子はとても感動しました。
◆みなべで貴重な体験を
観察にあたってはみなべ町教育委員会への申請が必要です。またウミガメ保護のため、浜ではフラッシュ撮影の禁止、産卵するまでは近寄らないなどのルールがあります。調査員の方の指示にきちんと従って、観察してください。
みなべウミガメ研究班の方のお話では、今年は上陸数が少なく、8月中旬ごろまでしか見られないかもしれないそうです。興味のある方はぜひ訪れてみてください!
観察の申し込みはこちらから →みなべ町教育委員会ホームページ