今の世の中、ピアノを演奏する上で「脱力」は当たり前の事として認識されるようになってきた。
けれども、完全に指がブラブラの状態では鍵盤に歯が立たず、音を鳴らす事は到底出来ない。
勿論、手首の支え、腱の支えが必要で、更に指にも支えが必要になる。

力んで弾くクセがある方は、初めはとにかく力を抜いてみて「脱力」の状態を体感してみる事が第一だけれど、そのままでは弦を鳴らしきれず、この奏法で言うところの「鳴っていない」状態になってしまう。

「鳴っている」状態は、テニスに置き換えてみると解り易いかもしれない。
ラケットのストライクゾーンに、然るべきタイミングで然るべき角度でボールが当たった時、殆ど腕や手に打撃を感じる事なく、ボールがスコーンと気持ち良く飛んで行く。

ピアノも同じで、然るべきタイミング、然るべき角度でハンマーが弦に触れると、響き(空気の振動)は気持ち良く弧を描いて飛んで行く。
この時、腕や指に無駄な力を入れず、要所要所に支えを作る事が必要になる。

支えを作ったら指はブラブラで良いのかと言うと、そうではない。
ほんの少し、一摘みの塩を鍋に入れる時の指の感覚。
指で塩を摘む時、力は入っていないけれど、指の腹や手の平の皮膚に、少し緊張感があるのが感じられる。
手の内側のその緊張感によって、響きが飛んで行く方向から響きの表情まで、響きを様々にコントロールする事が出来る。
手の内側の緊張感と、数カ所の支えが無いと、体の重みを乗せる事が出来ず、「鳴っていない」状態になってしまう。

料理をしながらほんの少し塩を摘む時、手の内側や指の緊張感に神経を集中させてみると、感覚が掴める。
手の甲が力まないように。
手の内側を意識して摘む。

あまり夢中になって、つい塩を入れ過ぎないように。