米グーグルのモトローラ売却 ~ 会計上売却損失はほとんど出ない? | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


米グーグルがモトローラを売却するようです。

日経等の記事によれば、2012年に125億ドルで買収したモトローラを29億ドルで売却するようですが、そんな短期間で巨額損失??ということで、ちょっと開示資料をちょっと見てました。

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まず、グーグルがモトローラを買収したのは2012年5月。買収対価は現金で124億ドルです。

会計上の買収対価の取得資産への配分(PPA)としては、現金29億ドル、特許等55億ドル、顧客関係7億ドル、暖簾25億ドル、その他8億ドルで合計124億ドルとのこと(2012年度の10-Kより)。

ここで後ほど重要になるのは、買収したモトローラはMobile事業(携帯端末)とHome事業(セットトップボックス)の2つのセグメントとして認識したものの、主にシナジーとして説明されている暖簾はGoogleセグメントに配分されている点です。

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その後、グーグルは2013年4月にモトローラのHomeセグメントを米通信機器のArrisグループに現金24億ドル、同社株式2億ドルの合計26億ドルで売却しました(案件は2012年末に公表され、2012年度末時点でHomeセグメントはdiscontinued operationに分類されています)。

この時、Homeセグメントでは約8億ドルの売却益が計上されています。

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そして今回、2014年にモトローラのMobileセグメントを中国レノボに29億ドルで売却します(対価は現金、株式、手形の組合せ)。Mobileセグメントは2012年度4億ドル、2013年度10億ドルの赤字で、新聞記事によれば投資家からの売却圧力も強かったそうです。

但し、売却後もモトローラの特許のほとんどはグーグルが継続保有し、レノボにライセンスする形態をとります(もともとのモトローラ買収の主目的も特許の取得にあったようです)。

モトローラの特許は2012年の取得時点で55億ドル相当です。その後償却も進んでいますが、単純に計算すると、グーグルは124億ドルで取得したモトローラについて、Home事業を26億ドル、Mobile事業を29億ドルで売却し、55億ドルの特許を継続保有するので合計110億ドルを保有・回収していることになります。

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更に、上述の通り、モトローラ買収時の暖簾25億ドルは、Googleセグメントに計上されています。

あくまでGoogleセグメントの暖簾であれば、モトローラ売却後も減損/除却されることなく認識される可能性があります(モトローラ特許の継続保有により、シナジーも維持できると)。

そうすると、グーグルは先ほどの110億ドルに暖簾25億ドルを加えて135億ドルを保有・回収しているとも考えられます。この場合、会計上は今回のMobile事業の売却によっても損失はほとんど計上されないかも知れません。

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まあ、暖簾の扱いはちょっとわかりませんので今後の開示資料を待ちたいと思いますが、少なくとも僅か2年で100億ドル近い損失、というわけではなさそうですね。

Arrisへの売却をセットで報じないのはちょっとミスリーディングではないでしょうかね。

今回はここまでです。


(4/18追記)

Googleの2014年第1四半期の決算が発表されました。

予想通りモトローラの売却に係る損失はほとんど発生していません。

モトローラ事業はdiscontinued operationとして売却予定資産に分類され、関連する損失はわずか2億ドルです(といっても巨額ではありますが)。

売却予定資産に分類する際に公正価値が簿価を下回っていれば評価損を計上するはずなので、要するに売却損は発生しないということでしょう。

ちなみに暖簾の金額は、2013/12末の115億ドルから2014/3末で142億ドルと、27億ドルの増加です。おそらくNest Labs社を32億ドルで買収した影響と思われます。

とすると、やはりモトローラの買収によってGoogleセグメントに計上した暖簾(25億ドル)は取り崩していないものと思われます。

10-Q等が公表されないと詳細は確認できませんが、概ね当初のブログエントリーで予想した通りな感じです。

まあ、所詮は会計処理の話ですが。