※※ この本を読んで一言 ※※

時代と場所を超えて、様々な出来事が密接に絡み合う・・とは言えないのでミステリやサスペンスとは言い難いです。

しかし雰囲気を楽しむ作品だと思うので、私は面白かったと思います。

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今回は吉田修一さんの「湖の女たち」を読みます。

これはいつも通りインターネットでミステリー小説を買うときに、オススメで出たから中身は全く知らないまま買いました。

完全なイメージ買いです(笑)。

 

タイトルからしてミステリーっぽいですし、表紙を見るとホラーっぽいので、どんな物語なのか期待して読み始めました。

 

読み進めていくと、視点や場面がコロコロ変わっていきます。

私は「これは一見関係のない事柄が、ラストで一気に収束して、すべてが関連していることが判明していく物語だ!!」と期待しながらドンドン読み進めました。

 

介護施設での殺人と捜査する警察の冤罪を作り出す手口、20年以上前の薬害事件と太平洋戦争時の満州での731部隊、政府や大手企業(と思われる)からの警察や出版社への圧力、圭介と佳代の共依存(?)のような関係、三葉(とその取り巻き)による老人たちへの偏見など、いろいろな要素が同時進行で展開していきます。

 

でも結局これらのほとんどははっきりとした結末が書かれないまま終わってしまい、消化不良気味ではあります。

 

戦争時の満州での日本人少年とロシア人少女の凍死事件と今回の三葉たちの人工呼吸器を止めることは、概要としては似ているかもしれませんが、結局は無関係です。

 

強いて言えば、松江は満州で少年たちが凍死する前の現場を目撃していながら、その後この事を語ることはなかったため、その報いを70年後に夫である市島が受けてしまったという事かもしれません。

 

なおこの場面でボート小屋の中の現場を覗き見るときに『松枝は横倒しになった丸太ん棒に片足を乗せると、その丸窓から中を覗いた。』とあり、その後でも『自分の片足を乗せているのが丸太だと今さら気づき、その感触がまるで死体を踏んでいるようだった。』とあります。

 

松枝が踏んでいた「丸太ん棒」や「丸太」は人体実験の人間であったのでしょうか。

「丸太」は実験体であったとされるので、それが外に放置されているとは思えないので、ここで松枝が踏んでいたのは本当に木の丸太なのでしょう。

 

しかし子どもたちが『二人とも服を脱げ。これは実験だぞ!』と言っていることから、これからやろうとしている事が731部隊が「丸太」を使って行ったことと同じような事を子どもたちが実行するために、敢えて丸太という言葉を登場させたのだと思います。

 

また佳代についてですが、佳代自身が作中でも述べていますが、このような性癖の女と、その性癖を満足させる男が出会うというのもなかなか奇蹟的な事だと思います。

 

この作品の最大の楽しみ方は、湖の綺麗な描写に酔いしれる事だと思います(笑)。

そして湖にかかった靄のごとくはっきりしないが、それでいて残酷な人間社会の雰囲気を感じる事だと思います。

 

要は雰囲気を楽しむ作品だと思います。

なので映像化したら綺麗な作品になるのではないかと思い、読み終わってから検索したら、ちょうど映画化されて7月16日現在でも上映している映画館があるようです。

 

この本を購入した時はちょうど映画が公開された時だったので、本の購入サイトでオススメに出てきたのか~と納得してしまいました。

 

しかし世の中は答えのない事、真相は闇の中という事も多いですし、男女の関係や人の心の中などは、なおさら分からないので、この作品もそういう意味では現実に即しているといえます。

しかし小説という作品の中だけははっきりとさせてくれた方が私はうれしいですけどね。

 

(個人的評価)

面白さ  ☆☆☆

登場人物 ☆☆

雰囲気  ☆☆☆☆

社会の闇 ☆☆☆☆☆