小林泰三さんの本はこれで4冊目になります。
そして「アリス殺し」「クララ殺し」を読んだからにはこのドロシイ殺しも読まないわけにはまいりません。
ということで読み始めました。
読んだ感想は、このおとぎの国のシリーズに慣れたせいか地球とフェアリイランドの関係性は前2作と大きく違わないので驚きはすでになく、本体とアーヴァタールの意外性も特になく、物語の中に出てくる残酷描写は無理に付け足したような感じがします。
また井森の活躍も作品を重ねるごとに少なくなってきている印象ですし、このシリーズ特有のビルや他のキャラクターとの頭のおかしいイライラする会話も慣れたせいかあまりイライラしなくなりました(笑)。
総じて前2作よりもマイルドになった気がしました。
肝心のミステリー要素も犯人や殺害方法、動機なども読んでいるときは全く分かりませんでしたが、真相がわかるとものすごく単純なことでやや拍子抜けです。
この物語において一番印象に残るのは、オズマをはじめとした魔法使いによる独裁政治の薄気味悪さ、理不尽さが際立っていることです。
「犯人を罰しないから犯罪は存在しない」や都合の悪いことを魔法で覆い隠して、記憶まで改ざんするオズマの考え方は、読んでいてとても腹が立ちます。
しかし現実の世界でも「国民は平等だから貧困問題や格差問題は存在しない」と言っている国や、「高齢者を75歳以上と定義し、それまでみんなが働けば高齢者問題は解決する」という現時点では冗談のような論理もあるくらいなので、その時の為政者の都合で何とでもなってしまう恐ろしさを、この物語では極端ではありますが表現していると思います。
ある意味この作品は、私にとってミステリー小説の内容の事よりも現実の政治の在り方について考えさせてくれる稀有な作品となりました(笑)。
いつもどおり読み終わった後に他の方の感想、考察を拝見していると、この作品においてもも小林さんの別作品のキャラクターが登場していると知りました。
「クララ殺し」同様、他の作品を知っている人にしてみればこの作品もオールスター戦のような感じ何でしょう。
小林さんの作品の醍醐味の一つである残酷描写は全体ではマイルドと書きましたが、一つ斬新だと思ったはジンジャーの顔をメッタ刺しにされた死体の顔を真っ二つにして断面から検視をすることです。
私はこのシリーズの最大の謎は、地球とおとぎ話の国の別世界(不思議の国、ホフマン宇宙、フェアリイランド)との関係性だと思っています。
ラストで亜里たちとの会話から推察すると、「アリス殺し」の前に今回のフェアリイランドの話が差し込まれたようですし・・時間軸的にはドロシイ殺しが最初に来るのでしょうか?
そしてなぜビルは毎回接点がないと思われるそれぞれのおとぎ話の国に迷い込むのか・・
いろいろな疑問はありますが、これらはそのうち明かされると思って気長に待つことにします。
ちなみにこの「ドロシイ殺し」の前に読んだのがアガサ・クリスティーの「アクロイド殺し」で、題名に「〇〇殺し」が続いたのは偶然なんですが、ミステリー小説において題名が「〇〇殺し」は多いんでしょうか・・気になります(笑)。
(個人的評価)
面白さ ☆☆
ミステリー度 ☆
残酷度 ☆☆
独裁者の怖さ ☆☆☆☆☆