柳家喬太郎師匠に特にくわしいわけではない。が、この一枚はたまらない。
新作、というのか、ともかくパロディではある。
古典の「抜け雀」のパロディの「抜けガヴァドン」。
ガヴァドンとは「ウルトラマン」の中に出てくるとぼけた怪獣で、ムシバくんなる子どもが土管に描いたへんな三角形が、朝になると抜け出すもの。
この怪獣が出てくる話は二話あり、最初の三角形のガヴァドン(Aと呼ばれることがある)はただ寝ているだけ。別の話に出てくるガヴァドン(B)はだいぶ怪獣らしくなっているが、やはり寝ているだけ。こののどかな怪獣を倒そうとするウルトラマンに対して、子どもたちの助命コールが響きわたる。
ウルトラマン・ファンとして知られる喬太郎師匠は、ウルトラQの不気味な出囃子にのって登場、ウルトラマンを思わせる赤と銀の羽織で、高座にあがる。
このあたりから客席のワクワク感が盛り上がる。
ストーリー自体は、「抜け雀」をなぞっていて、旅の絵師が宿賃として、紙がないので、裏庭に転がっていた土管に「三角形の絵」を描いてくれる。どうみても、目のついたはんぺんか、水餃子にしか見えない。亭主が、
これ、なんですか?
すると、喬太郎師匠は斜め右に顔をかたむけ、なんともいえないにんまりとした顔で、「ガヴァドンAだ」とひとこと。
客席が湧くまいことか。このひとことは、宿の亭主に言っているのではなく、ウルトラマン・ファンの客席の「同志」たちに向けて、思い入れたっぷりに発せられている。ガヴァドンだけなら、さほどでもないが、「ガヴァドンA」というマニアックな響きがくすぐる。
後半、絵師の父親が登場し、息子の作品が毎日土管から抜け出るのを見て、「まだ未熟だ、自分が一筆書き加えてやる」という。だいぶ怪獣らしくなったその絵を見て、亭主が
それは、なんですか?
「ガヴァドンBだ」
予想されたとおりの答えを、思いっきり、じっくりと、したりげに、客席に押し込む喬太郎師匠。「だ」の重さ。
このひとこと(と、そのあとの間)がたまらない。
落語の滋味はここだ、と思う。この「ガヴァドンだ・・・」のせりふの間合いを聞きたいために、かけてしまう。聞くと、何だかうれしくなるのだ。
★落語自体をわきにのけての、客席との一体感をめざすメタ落語??。
後半、師匠はキエーッ、アーッ、クエーッと、両手でガヴァドンの這いずりかたを熱演し、息子絵師が描きたしたというウルトラマンとの立ちまわりを、TV番組の手順どおりにやってのける。ものまね、ではなく、全身を泳がせて。
このDVDでの下ゲは、youtubeにあがっている他の口演とは違い、マニアならではのにやりとさせる後味だ。
★『ウルトラマン落語』日本コロンビア 2016
「ウルトラマン」放送開始から50年を記念して行われたイベントのライブ。「抜けガヴァドン」のほか「ウルトラの郷」(柳家喬太郎)「ふたりのウルトラ」(柳家喬之助)特典の「アフタートーク」
どこがパロディなのかみずから解説した「ウルトラマン落語が楽しくなる解説書」つき。