以前、こんな話を聞いた。(実話である)

一人の目の見えないおばあちゃんが、ある福祉施設に入居してきた。

息子さんと二人暮らしだったが、
諸事情で息子さんは、そのおばあさんの介護が出来なくなり
おばあさんの住む小さな町の町長さんが、身元引受人となり
わずかな年金から施設料を支払い、介護してもらっていた。

目も見えず、高齢なので年金の通帳は施設で預かり
そこから月々の利用料は引き落とされていた。

息子さんが面倒を見れないその理由。
刑務所に入っていたからだった。

やがて出所し、施設に訪ねてくる息子さん。
引き取りにきたのかと思いきや、さにあらず
施設で管理している銀行のカードを取りに来たのだった。

それから間もなく年老いた目の見えないおばあさんの通帳からは
一日に何万円というペースでお金が引き出されて続けた。
施設への支払いもおびやかすほどに。

肉親同士のことであるから
第三者である福祉施設の人間には口出し出来ない。

ある日、全く引き出しがされなくなった。
息子さんも姿を見せない。

何日か経ち、施設に電話が入った。
その息子さんが死んだ、と。

自殺したのだった。

刑務所あがりでは職も得られず、お金を引き出していたのは、
それをまぎわらず為にパチンコに興じていたからだった。

施設の人は息子さんの死をおばあさんに話した。
おばあさんは信じなかったそうだ。
たった一人の息子に先立たれ、盲目のまま、これからも生きていく・・・。

「・・・福祉の世界ではこんな話、ゴロゴロあるよ。」
と、その関係者は言った。


何というか、俺はまだ世の中を分かっていない。そう思う。