桜金造が心霊体験記「背筋の凍る話」の中で
「誰もいない部屋で誰かの視線を感じたら、それは絶対に
霊が貴方を見ているのです。」
と断言していたが、それ、すげぇ嫌。

「誰かが見ている気配」って身体のどこのセンサーが察知しているんだろうか?

それはさておき、奇妙な出来事があった。

あご男が仮病、胃潰瘍で入院して数日経ち、
その間、出るわ、出るわ、奴の隠してきた不始末が。
毎日必ず、あいつがらみで、右往左往するようなサプライズが起こる。
地雷原の中を、目隠しで全力疾走しているような日々・・・。

女性陣の必死のカバーもあったが、上司の俺にも当然
そのとばっちりは飛んできており、疲労はかなり溜まっていた。

うちの事務所は地下一階にあり、出入りは1階で
いつもは階段を使って出勤&退出しているのだが、
その日は仕事が終わり、一人寂しく鍵をかけ激務の疲れからか、
階段を昇るのさえ面倒でエレベーターに乗った。

エレベーターの中には鏡があり
疲れきった生気のないプチ中年のメガネだけが
こちらをどんよりとした目で見返していた。
1Fのボタンを押す。
ガタンッという軽い振動の後、スーッと動き出す。

意外に遅いな・・このエレベーター?
・・・あれッ!?何で1階で停まらんのん??
あっ!4階のボタン押しとるわ、俺。

「チーン!」と乾いた音がなり4Fの扉が開く。
駐車場になっている4階。
夜の暗闇の中に浮かび上がる剥き出しのコンクリート。
冬特有の身を切るような冷たい風が吹き込んでくる。
もちろん、誰も立っていない。ただ漆黒の闇があるのみ・・・。

「・・・恐い。」

扉が閉まったあとすぐに1階のボタンを連打ッ&連打!!
はよ動けッ、ボケッ!
再び動き出すエレベーター。

「何で4Fを押してしまったんだろうか?
疲れているにしても、ボタンの位置が近いわけじゃないし・・
無意識とはいえ、なんで???」
意外と真剣に悩んだ。

しかし1階に降りるどころかエレベーターは上昇を続け
9階のセントラルフィットネスで止まる。
その間も「何で4階を押したんだ???」
という疑問が脳裏から離れなかった。

ドアが開き、どうってことない普通のおっさんが乗ってくる。
おっさんは慣れた様子で「4階」ボタンを押した。

「4階」という偶然の符合に多少とまどいながら
エレベーターの中でおっさんと二人。
気まずい沈黙が流れる・・・。

エレベーターの中で他人と二人になる時って妙に圧迫感があり、
ましてや、二人きりの相手はおっさん。とっとと降りろ。

永遠とも思える数秒の後、4階で止まるエレベーター。

おっさんは4階についたのに降りようともせず
何故か普通に3階のボタンを押した。

「???」

3Fに着き、そのまま扉の向こうに消えるおっさん。
おっさんも4階のボタンを何かに魅せられたように押した・・・。

ごく数分の間に二人のオヤジが目的ではないフロアのボタンを押す。

しかも同じ4F・・・・。

何で?何で?何で????

その夜、お気に入りのラーメン屋で、
『野菜ラーメン・チャーシュー盛り』を頼んだ俺。
味は普通だった。