ある日、社内電話が鳴った。


「石○マネージャーですか?
今、うちの支店に
岩○ユキヨ様というお客様よりお電話が入っておりまして、はいッ!
石○マネージャーの連絡先を聞きたいと言われましたので、はいッ!
こちらからご連絡を差し上げるとお伝えしておきました。」



いつもながら何かに追われているような
切迫した声を出すのはビッグムーン君だ。


約1年前まで俺がいた支店に
お客から電話が???
営業か?はたまた以前にトラブったお客か?
しかし全く持って心当たりはないのであった。



そもそも俺の人生の中で岩○という名前で
思い当たるといえば高校時代の同級生の女しかいない。
下の名前ってなんだっけ・・・?。



ちなみに岩○とは大学時代にたまたま同じ関西方面だったのが縁で
友達の女のコを紹介させたり、
こちらからも浪人時代の仲間である池ちゃんを紹介したりと割と交流があった。
でも10年くらい音信不通でどうしているか知らないし、知りたくもない。



そういえば岩○って
池ちゃんの童貞喪失の相手でもあったし
あのヨシアキともこっそり付き合ったりと
俺の人間関係を妙に侵食する女だったなぁ・・・。



大して楽しくもなかった学生時代の記憶に
一瞬嫌な気持ちになったが気を取り直して聞いてみた。



「こっちの番号を教えたの?」



「いえ、教えてないです。向こうからは電話番号を聞いておりますので、はいッ!」



「ふ~ん。教えて」



「はいっ!090-●●●●-○○○○です!」



「ありがとう。じゃ、こっちからかけてみるわ」



「はい!はい!」


「はい!」を連発の礼儀正しいビッグムーン君。
すごくいい奴だと思うんだけど
受話器の向こうでは背筋をピーンと伸ばし、
しゃちほこばっている様子が見えるようだ。

俺たちは軍人ではないし
上官と話している訳じゃないんだから肩の力を抜こうよ。


メモ書きの電話番号を社内の端末で検索をかける。


「該当者はなし」



誰なんだ?この岩○って人は?


しかし、俺の中ではほぼ確信していた。
間違いなくあの「岩○」だろう。


数年前にヨシアキと話をした時に

「そう言えば岩○さんから久しぶりに電話がかかってきてさぁ~
相変わらずグダグダな生活を送ってるみたいなんで説教してやったよ~~、
石○クンとも「連絡取りたい」って言ってたぜ~~。」



「お前、俺の番号、教えたの?」



「まさか!教えるわきゃねーじゃん。」



「そっか、ありがとう」



そういう会話をした。思い出した。



しかし、何で俺が現在勤めている会社を知ってるんだろうか???
俺の記憶が確かなら
奴は高校時代の人脈を断絶した大学生活を送っていたはず。

人づてに聞くにしても、
俺の周りにはあいつと情報交換をしている奴がいるなんて
聞いたこともない。
謎だ・・・。


そもそも10年くらい音信不通の同級生が
会社にまで電話をかけてくるとは尋常ではない。
何かあったのだろうか?



高校時代から「石○くんを尊敬してる。」と
こちらが寒イボが出るような発言をしていた岩○。


同じクラスになったこともなければ
仲良くしていた訳でもない。
はっきり言って笑いのネタにしていただけだ。


髪がすごくキレイで、背後から見ればいい女だが正面から見れば・・・。
後輩から「見返りブス」と渾名をつけられていた岩○。


大学時代、イタズラで岩○の名前で結婚相談のハガキを送ったら
それをもって警察に駆け込み
筆跡鑑定を依頼し断られたエキセントリック岩○。



池ちゃんの童貞喪失に協力して、やることはやったくせに
「こんなことをする為に大学に入学した訳じゃない!」と泣いた岩○。


「石○くんてベジータ に似てる。」
とドラゴンボールのキャラクターに俺をなぞらえ
嬉しそうに語っていた岩○。



俺の岩○に対するイメージはそれだけだ。
何の用だ?一体・・・。



しかし前に進まねば・・・。

「184」を押しこちらの番号が出ないよう
確認した上でメモに書かれた電話番号に電話をかけた。


続く・・・。






   山さんにはビッケと呼ばれていた高校時代の岩○。