その前日は職場の連中と焼肉を食っていた。
日頃の労をねぎらう時間。


「しかし、お宮もよく頑張ってるよな~。」

肉を頬張りながらモゴモゴ言う。



「マネージャーのご指導のお陰ですよ。」

ビールを飲んで潤んだ目で答える宮●。



「その会話やらしいなぁ~。政治か?アハハ」

神戸娘の突っ込みも軽妙に入る。


ワイワイやってその日の宴は終了した。
ただ一つ、いつもと違っていたのは
ユッケとか生レバーについていた
松の実をマメにお手拭とか入れるビニールの中に
せっせといれていたことだ。


その時期
職場では空前のハムスターブームの真っ只中であり
神戸娘や天然娘が日替わりで
MY・ハムスターを職場に持ってきては
業務そっちのけで
「見て見て~~~、カワイイでしょ~~??」とやっていた。


オレも元はハムスターブリーダーであり
繁殖させすぎたハムスターを野に放ったり
小学校の前に放置したり、と大活躍していた男なので
そんなんでは示しがつかない・・・と分かっていても
「どれどれ?あっ口の中にエサ溜め込んでるな!(^^)」
と好々爺のように目を細めてハムスター達を眺めて楽しんでいた。

(そのうち飽き足らなくなり、飼い主が離籍中に
ハムスターボールを高速回転させて
ハムスターがフラフラになっている姿を見て大笑いしたり、
冷たい水の中に放り込んで
溺れる姿を見て楽しんだり、とエスカレートしていったのだが・・・)


ハムスターの好物はヒマワリの種と言われているが
「松の実」に関してもガツガツ喰っている姿を覚えていたので
是非、食べさせてあげたい。

そんなやさしい思いから
次々と運ばれてくる料理からせっせと松の実を
取り分けていた訳だ。

横に座った宮●くんにもお願いして
彼の分の松の実もおすそ分けして貰った。

呆れたような視線を神戸娘や天然娘に向けられようとも
実際に大量の松の実をハムスターに食べさせる瞬間のために
上司の威厳をかなぐり捨ててまでかき集めた。


時間もあっという間に経ち
電車の時間があったので先に帰る準備をする。

その際に
「俺、こんなん持って家に帰るの面倒だから
宮●くんが一旦持って帰って
明日持って来てよ。」とお願いした。


「僕がですか!?」
やや、戸惑う宮●。

「何で松の実を家に持って帰らないといけないですかぁぁぁ
アンタが勝手に集めたんでしょうがぁぁぁ 。 死んでしまえ~~~~!!」
とチマチマならば心の中で叫ぶだろうが
宮●はあっさりと観念し

「分かりました。」と言ってくれた。



「じゃ!お疲れ~~~!!」
松の実、頼んだぜ!



「お疲れ様で~す。」

帰路についた。





次の日の朝・・・。


「おはよー!」


「おはようございます!」

いつも返事は元気良い宮●。
実にカワイイ部下だ。



「そうそう・・松の実、持って来てくれた?(^^)」



「へっ・・・!?」



「・・・ん?どうした(^^)?」



「・・・あの・・・実は・・・」



「???何、なに~?(^^)」



「そのまま店に忘れてしまっ・・・」






お前はアホかぁ!!!!!
何、ボケっとしとんじゃいッッ!!!
オレのこと、舐めとんか!おぅ?
クソボケーーーーッッ!!!!
死んでしまえぇぇぇぇーー!!!」



自分でも驚くくらい腹が立っていた。
大好きな焼肉もそこそこに
チマチマと松の実を集めていた俺の姿を見ていたはずの
宮●が・・・。
舐めたマネしやがって!!


「だいたい、お前の仕事ぶりからして
いい加減なんよ!!!」



「お前には誠意がない!」


「こんなミスが許されると思ってるのか?」


一旦、火がついた俺の怒りは
どこまでも収まらなかった。



「松の実」でそこまで言うか?
唖然とした表情の神戸娘と

何が起こったのかさっぱり分かっていない天然娘と

最大の被害者、涙目の宮●・・・。



ここにおいて俺のこのエピソード
「松の実激怒事件」
俺の人間の小ささを物語る伝説として
奴らの記憶の中に刻まれることとなった。



今でも「松の実・・・」と言えば
誰かが「ププッ」と笑う。


松の実が無いだけで
全力で24歳の若者を怒鳴り上げる33歳の俺。
短気にも程がある、と思う。


今年は生まれ変わるぜ!多分。






                狂人。