『貧乏ヒマなし』を地でいく俺は、たまに遅出をする。
なぜなら、シフトは俺が立てているからだ。

ごくたまにであるが遅出をした俺を尻目に
事務所にスタッフが揃って何やら深刻に話し合っている場面に出くわす。


「どうしたん?」そんな時は鷹揚に聞いてみる。
内心の動揺を押し殺して。

クレームか?
抜き打ち監査か?
はたまた社内におわす神様からのお電話か?

そんな些末なことを心配しているのではない。
もっと深い部分が疼くのだ。
トラウマと言っていいかも知れない。

抑圧され歪んだ方向に進んでいた中学生の頃の俺達。


高校になり一気に開放された反動はなかなか収まらず
身体だけは大人に近づく高校時代だが
中身は稲中卓球部 そのままに『青春』と言う名の迷路をさまよっていた。

高1の時、ツウがパッキン頭だった影響を受けて
パクリ体質のシミ(こいつもアゴ男同様、次男坊)が
オキシドールで髪の色を落としてたのを
バカにしていたくせに、急に羨ましくなり
薬局でオキシを買って母親の化粧道具からパクった
霧吹きのような容器に入れ替え、恐る恐る試してみた。

やったことがある人なら分かると思うが
あれってすごく指が臭くなるうえに

天パーの俺では髪がチリチリとなり、
当時流行っていたバンドマンの颯爽とした茶パツではなく
カタヤキソバを頭に乗っけたようなテイストになってしまった。


それをむりやり後ろになでつけたもんだから
爽やかとは程遠い、かといってヤンキー風でもない
コンセプト説明不可の髪型になり何ともやるせない思いをしたもんだ。

吉田栄作ばりのサラサラヘアーが流行っていた当時は
天パーの人間にとっては受難の時代だった。

そんな時代の波に翻弄され
デブでもオタクでもなく、友達も多かったにもかかわらず
全くモテなかった俺。


俺の女性に対する歪んだ価値観は天パーによって
形成されたところ大である。

人生の前半は間違いなく「天パー」との戦いの歴史だ。
俺が薄っぺらな男ではないことは分かっていただけただろうか?

そんなことはどうでもいいのだが
そういった多感な時期に事件は起きた。

最近、女子高生を狙った事件は多すぎてもはや食傷気味だが
今から15年前の我が母校でも
『1組の女子、河村さんの制服が盗まれる』
という事件が起きた。

先生が言いにくそうに話していた。
確かに思春期のガキどもの前で変質者の話題は難しいだろう。

河村さんなんて知らないし、同情のしようもなかったが
思春期の男子としては「女子の制服が盗まれる」という事件には
「淫靡なモノ」がからんでいるのは分かりすぎる程分かっていた。

最初は「どんな奴が盗ったんだろう?」「どうして盗んだんだろう?」
という素朴な疑問がやがて

「制服を盗みたいと思わせるような美人なんだろうか?」になり

「河村さんを見てみたいっ(;´Д`)ノ」
「盗んだ制服で何をするんだろう?(´Д`)ハァ・・」
「臭いとか嗅ぐんかなぁイヤン(*ノ∇)ゝ」

と想像はエスカレートしていく。
教師が一番避けて欲しいピンク色の方向。


そこにまっすくに進んでいく思春期男子の妄想。
獣はジャングルにいるのではなく、「高校」に多く生息する。

いつもとは違う
気まずさの中でホームルームは終わりそれぞれが家路に就く。

いつもなら速攻帰る俺だが、何故か教室に残っていた。
その辺の記憶は定かではない。

そして次の日。
遅刻をしてしまい、ダッシュで教室に向かう。
朝のホームルームも終わり、一限目の授業が始まっている。


「やばいっ・・」


遅刻なんて優等生の俺のやることではない。
息を切らしながら教室のドアを開ける。


「あれっ!?」



教室には担任の先生が立っていた。
ホームルームでは担任が話をして、その後各教科の担当の先生が来るはず・・・。
なぜ、この時間まで担任の先生がいるんだろうか???

しかも普段は温和で
どちらかというとボケていると言ってもいい瀬尾先生が
鬼のような顔をしてこちらを見ていた。

クラス全員が揃い、水を打ったように静まり返っていた。
牧歌的な我が2年9組にあってそれは異様な雰囲気だった。


「石○くん、これ書いた人知っとる?」
静かに俺に聞く瀬尾先生。


先生が指差したその先は・・・
というより最初から気がついてはいたが
認めたくなかった黒板に書いてあったその落書きは・・・







当時クラスには高橋という男子が二人おり
どちらもザコキャラで俺の中では「W高橋」として認識していた。

何であいつらを名指ししたのか分からない。
おそらく気まぐれだろう。


確かに俺の犯行である。




「知らん」


俺は即座に答えた・・・。






それで終わったはずなのだが、
その事件は俺の心に何らかの作用を残したらしく
今でも自分のした些細なイタズラが
大事件になっているのではないかという妙な恐怖にさいなまれ続け生きている俺。

いい奴だよな。