地元にいると、すっかりご無沙汰の同級生を
ごくたまにであるが見かけることがある。

学生時代から言えばもう10年以上の月日が経つが
たとえ、デブになっていようが、ハゲていようが
何となく分かるものである。



当人がこちらに気づかず、すました顔で歩いているのを
偶然、見かけたりすると、過去を知っているだけに
「格好つけんじゃねーよ。」と妙に笑いがこみ上げてくる。



以前もお好み焼きを喰っている時に
小学校から高校まで同じ学校の井田仁、通称ダジンを発見した。

高一の時、同じクラスで随分ちょっかいを出してやったもんだ。
高二になってクラスは別になり、本人的にはホッとしたのだろうが
高三の時には、よりにもよってツウと同じクラスで
相撲部屋で言うところの「可愛がり」をくらっていた男だ。



ダジンは最後までこちらには目線をくれなかった。




ある日、自宅のマンションに戻ると
郵便ポストに紙切れが入っていた。大家さんからのようだ。

「○○様(俺の名前) 2003年度11月の家賃が振込みが
確認できておりません。至急、お振込み願います」


その時は確か4月くらいだったはずだ。
早く言ってくれれば、すぐ払ったのに・・・。

でも・・・月末周辺はハリケーンにあったように忙しい俺であるが
家賃を振り込むのは大切なイベントのはずで、忘れるなんてことはあり得ない。

パチンコに明け暮れ、家賃を滞納しまくっていた学生時代とは180度生まれ変わり
まっとうな社会人生活を過ごしている今の俺に限ってそんな・・・



まさか・・・!?不祥事が続いている銀行の落ち度では!?
そう言えば銀行は貧乏人はゴミみたいに思っている。
と何かの本でも読んだことがあるし・・・。


新人か何かがうっかりミスでも、しやがったのか?
不安と怒りが込み上げてくる。
このガキャー!!!!


俺はすぐに振込みをしている銀行に向かった。
顔は怒りに震え、目は憤怒の炎で燃えていた。



担当らしき窓口の前に仁王立ち!
窓口のネーちゃんまでが憎くなってくる。
こいつが俺の金をチョロまかしたんか。

「家賃振りこまれてないんですけど!!!



いきなりの怒り全開モードで言ってやる。
真面目そうなメガネ男の乱行に戸惑うお姉さん。

サービス業には同業種ゆえにつらく当たりかちだが
その日は特にキレ気味に自分の正当性をまくし立てる俺。


何とか俺の話を理解してくれたようで、あちこちに書類を探しにいくが
お目当ての書類が見つからないようだ。

「申し訳ございません。こちらの方で改めて
調査をさせて頂きましてまたご連絡致します」


「・・・っで、それっていつくらいですかぁ?」



何でこの女は、俺のこの怒りに対しても動じないんだろうか?
かすかな違和感を覚えながら、嫌味ったらしく言い放つ俺。

「○日までにさせていただきます。
 携帯電話へのご連絡でも大丈夫ですか?」



微笑みながらあくまで礼儀正しく対応してくる窓口の女。

「じゃ、それでお願いしますっっ!!」



何でこの局面でもこんなに丁寧に対応できるの?
と心の中で感心しつつも、振り返りもせずに踵を返す俺。



その後、電話で呼び出しをくらい、担当をしてくれたお姉さんを探すが
いなくて代りに役職者らしきオッサンが現れる。

「○○様、いろいろ我々も調査致しましたが
確かにご入金はなかったようでございます。これ以上、不審に思われるのでしたら
警察などに行かれたほうが宜しいかと・・・」


汗をふきふき、一生懸命説明する実直そうなそのオヤジ。


見れば分厚い書類を持ち、あちこちに付箋をした跡があり
懸命に作業をしてくれたようだ。あながち嘘をついているとは思えない。

「あれッ・・・?マジで振込み忘れてたんかな・・・?



そんな弱気が頭をもたげてくる。
がっ、そんな情けない部分を出して足元を見られたくないっっ。

「わかりました。それでしたら結構です。」

顔の筋肉を総動員して不信感ありありの表情を強引に浮かべながら、
心の中では自分の勘違いを確信し、俺は銀行を後にした。



それからしばらくして、同級生のまっさんに会った。

「いしべ(俺の仇名)、○○銀行、行かんかった?」
「行ったよ。何で知っとん??」
「『家賃の振込みが出来てない!』って、いしべが窓口に来た。」
って佐藤が言うとったから」

「・・・佐藤って誰?」
「いしべ、知らんかなぁ・・・?佐藤って高校の時の同級生。





俺が怒り心頭で文句を言った窓口のお姉さん。
彼女は同級生だった。しかも俺の記憶には無かったが
向こうはしっかりと覚えていた・・・。

言われれば、やけに親切で一生懸命な対応だった。
妙に笑顔だったのも合点がいく・・・。同級生だもんな。
きっと親身になって調べてくれていたんだろう。そんな感じだった。


そんなことも気づかず、「お客様は神様だろうか?あぁん?
というタチの悪いチンピラのような対応に終始した俺。




・・・死ぬほど恥ずかしい




佐藤さん、こんなトコで言う話じゃないけど、本当にゴメン!!!
今度会ったら殴ってくれ、力いっぱい!グーで。