散髪をどこでするか?
俺達の世代では床屋派と美容院派に分かれるのではないだろうか。
男らしく床屋!って言う人もいるだろうし
オシャレに見られたいし、やっぱ美容院だよ。という人もいるだろう。
俺は田舎育ちで硬派なせいかバリバリの床屋派である。
美容院はヒゲ剃ってくれないのがマイナスだ。
大分のヒゲの濃いテディベアこと、ヨッシーのように
芝刈り機でないと対応不可のようなヒゲを持つ剛の者も
当然、床屋派だろう。
大体、美容院においてある待ち時間に読む本は
WithとかMoreとかオシャレな女性誌ばかりで
俺のようなプチオヤジが読んでいたら薄気味悪いし、
週刊サンデーとか月刊マガジンのほうが、よほど座りがいいのである。
高校生の時に一時、色気づいて美容院に行ったが
2~3歳年上と思われるお姉さんとの密着感は興奮もので、
シャンプーの時には床屋のように頭を下げる型式とは逆に
仰向けで、顔に布を当てられ、やさしく髪を洗ってもらう環境は
思春期の妄想男子としてはベリーグーの環境だったが、
同時に
「こんな高校生が格好つけてもどうにもなるんじゃないのに・・・」
「この天パー!!」
とか、お姉さんが思っているのでは?
という思春期特有の自意識過剰の思い込みが
俺の小さなハートを締め付け
「こんな感じでどうですか?」の声にも、
とにかく気持ちよくその場をやりすごしたい一心から
「はいッ!いいです。これでいいですっ。」
と、ほとんど確認することなく即答してしまい、
金額が高い割に床屋に行ったのと
大して変わらない美容院の髪型にいつも後悔していた。
したがってその美容院を卒業した後はずっと床屋オンリーだった。
しかし最近ではカットのみならグッと安く金額もあがるようになり
近くに床屋もないことから会社近くのヘアスタジオに通っていた。
しかし純情男子校生として通っていた頃とは違い
若い女性に混じっての中年オヤジでは
「こいつ何か別の目的があるんじゃないの?」
と思われているんじゃないかと
疑心暗鬼になってしまい、これはこれで別の意味で
居心地の悪さは感じていた。
先日、通っていたヘアスタジオが移転だか閉店だがしてしまい
新規店舗が入ったのだが、カット料もアップし
さりとて新しいヘアスタジオを開拓する気にもならず
基本に返る意味も含めて床屋に行く事にした。
偶然見つけたそこは薄暗いビルの2階にあり、
客は一人も入っておらず
「おじいちゃん、おむつは蒸れてない?」
とやさしく確認したいほど
ヨボヨボのジジイが経営をしているようだった。
「カットしてください」
「あっ?カット??散髪でええんじゃね?」
・・・じじいッ
そこからがジジイのスゴイところなのだが
普通、霧吹きみたいな道具で髪を湿らせといて
髪を落ち着かせ、全体像を把握したうえで
お客様のリクエストをお伺いするのか散髪屋の基本だと思うのだが
全くそういう工程は無視して、
乾ききった髪にいきなりジョリッとハサミを入れた。
「えぇぇぇ!?」
意外な展開に心の中で叫ぶ俺。
そんな俺の動揺は一切無視してハサミを入れつづけるジジイ。
「アゴ上げてッ!」
サービス業らしからぬ調子で続ける。
「頭!動かさんといて!」
「ここで顔、洗ってッ!」
と、誰もいない密室でのまさにSM状態で
一方的に命令され、それに従いつづけた。
すべての作業が完了し、お金を払う段階でも
全く何のフォローもなく淡々と
まるでこちらが借りたお金を返しにいっているのか?
と錯覚させるほどの不遜な態度のじじい。
滅多にないケースだと思う。
でも、ここまで調教してくれると
これはこれで新しい散髪屋さんの形でないかと思う。
多分、また行くね。俺。