◇突き刺さる周囲の言葉

 ◇理解されぬ悩み続く/圧力ではなく応援して

 「人工授精でも体外受精でも何でもやって、子供を産まなきゃダメなのよ」。東海地方の女性会社員(37)が夫の実家で食事をしていた時、義母がそう言い放った。その前夜、義母は夫に連載企画「こうのとり追って」の記事を手渡していた。連載は、長引く治療のつらさや、出生の経緯を知った子供が戸惑う姿などを紹介していた。「治療を受ける人たちが悩みを抱えているという記事を読んで、なぜあんな冷たい言葉が出てくるのか」。女性は義母に憤りを感じた。

 女性は結婚後、しばらく夫の実家で暮らしていたが、義母は当初から「年齢も年齢だから(不妊治療の)病院に行った方がいい」「子供できるの?」とせかした。一人っ子の夫は「できなかったら、それでもいい」と言った。だが、義母は「後継ぎがいないと」と孫を求め続けた。

 女性は近くの産婦人科で治療を受け始めた。麻酔や薬の影響で体が思うように動かない時もあった。「今日は家事ができないかもしれない」と言うと、義母は露骨に嫌な顔をした。昨夏のある日、自分をにらみつけて言った義母の言葉に女性は、義父母と別居することを決意する。「畑が悪いから(子供が)できないんだ」

 女性は近く体外受精を受ける予定だ。「治療をいつまで続けるか期限を決めるのは自分。でも、義母のような周囲の声に精神的に追い込まれ、やめられなくなるのではないか」と不安も抱いている。

 奈良市の会社員、藤原貴子さん(39)は今年の正月、夫の親族の集まりを欠席した。1歳になる親戚の子供を見るのがつらいからだ。誰かに「子供はまだ?」と聞かれるのも気が重い。届いた年賀状は、子供の写真をあしらったものが増え、涙が止まらなかった。

7歳年下の夫と結婚したのは約3年前。20代のころは客室乗務員を目指して留学も経験した。仕事が忙しく、結婚を意識したのは30代半ばになってからだった。38歳で自然妊娠したが、ごく初期に流産。医師に「卵子は年齢とともに老化する」と聞き、「時間を無駄にできない」と不妊治療を受け始めた。

 「若い時に夢を追い続けたのがいけなかったのか。もっと早く結婚すればよかったのか」。夫を「父親」にしてあげられないのも切ない。

 親しい友人たちは「私にも(子供が)できたんだから大丈夫」「気にしすぎだよ」と言う。励ましだと分かっていても、生理が来ると落胆する日々のつらさを理解してもらえるとは思えない。治療中の人たちが参加する携帯電話の掲示板やブログで悩みを分かち合う。

 岩手県の男性(40)と妻は、周囲の心ない言葉に傷つき、不妊治療をやめたという。

 治療を始めて10年以上がたち、信頼できると思った病院を見つけたが、妻が市販の妊娠判定薬で調べた結果を伝えると、看護師から「素人が市販薬で判断するな」と叱責された。ショックを受けた妻は以来、治療を受けようとしなくなった。同僚や上司から「子供は気合でできる」「おれが作ってやるから奥さんを貸せ」と悪質な冗談を言われたこともある。

 男性は「不妊治療を楽しんでいる人はいない。周囲から有形無形の圧力を感じている人ばかりだ。子供を授かるまで、もしくはあきらめきれるまでは、どうか応援してほしい」という声を寄せた。

 和歌山県紀の川市の主婦、井関結加さん(41)は農家に嫁いで、4人の子供を出産した。全員が体外受精で、「出産しても自分の不妊症が治ったわけではない」と語る。
治療を受けていることは周囲に明かしてきた。長男を出産後、「やっとできた子だから過保護に育てているのでは」という目で見られたこともあったという。2人の娘に自分の体質が遺伝しないかも気になる。「不妊に悩む人は、たとえ出産しても自分の体のことを一生抱えていくもの」と話す。メールでは連載に対する意見もつづった。「世間の好奇心を刺激するような内容でなく、こちら側(不妊の当事者)の視点に立って書いてほしい」