ちょうど一週間前の日曜日、我が家に猫がやってきた。弟夫婦の友人夫婦が野良猫をいったん保護し、去勢手術と健康診断を受けさせて地域猫として戻す予定だったのだが、検査の結果、猫エイズウイルスに感染していることがわかり、外に放せなくなったのだ。で、いつか猫を飼ってみたいとほざいていた私のところに、弟夫婦経由で話が回ってきたという次第。
名前は、ミチ。「未知との遭遇」の、ミチ。これまで一度も猫と暮らしたことのない私にとって、猫との生活はまさに「未だ知らず」そのものだからそう命名した。愛称はみっちゃん、またはミーチャ。
傑作漫画『私という猫』の著者であるイシデ電によれば、「猫は宇宙」であるとのこと。ならば、私はこれから未知なる宇宙への大冒険に乗り出すことになる!
……などと阿呆なことばかり考えていたわけではなく、一人暮らしの我が家に猫を引き取ると決まってからは、これまで床に積み上げていたさまざまな紙類を処分し、長年放置していたエアコンのクリーニングを依頼し、猫を飼っている友人にうちまで来てもらって事前準備の相談をしたりもした。猫ケージを買い、爪研ぎを買い、猫飼い初心者のためのガイドブックを買った。
が、自分ではそれなりに準備をしていたつもりでも、いざ本物の猫がうちにやってくるというのは全く別次元の体験だった。いやあ、何事も実際にやってみないとわからないものだ。
私の場合、猫を引き取る経緯が経緯だけに、引き取るに際しては猫トイレから寝床の敷物、果ては当座の餌に至るまで、これまで猫が使っていたものを丸ごと全部譲っていただいた。おまけに、これまでもこれからも、弟夫婦とその友人夫婦である元の保護主さんにしょっちゅうLINEグループで連絡(相談?)することができる。猫飼いの初心者にとってこれほど恵まれた条件はあまりないのではないか、と思うが、それでもこの1週間というもの、私は猫の一挙一動におろおろしてばかりだった。
当初は猫と私の日々をきちんとブログに記録していくつもりだったのに、蓋をあけてみればそんな心の余裕はどこにもなく、ことあるごとにツイッターとLINEグループでわあわあ騒ぐのみ。我ながら情けないったらありゃしない(でもその結果、ツイッターのフォロワー数が飛躍的に増えた。猫のパワー、恐るべし)。
とは言え、ツイッターとLINEグループでわあわあ騒いだ記録をさかのぼれば、その日その時の猫と私の状況を振り返ることはできる。この先、まったりのっぺりとした平和な猫との暮らしが訪れることを期待して、あわあわしてばかりだった最初の1週間を簡単にまとめておくことにする。
1日目:元の保護主さんの車で猫がやってくる。洗濯ネットにくるまれてキャリーバッグに入れられた猫、終始一言も発せず。二段組の猫ケージの組み立てをお手伝いいただき、完成した猫ケージにクッションや猫トイレや餌置きや水置きをセットしていただき(一から十まで恥ずかしいほどお世話になりました)、いよいよ猫がケージの上段に入れられる。猫はそこで固まったまま、うんともすんとも言わない。保護主さんたちが去っていった後、心許なさ100パーセントの私が猫と一緒に取り残される。その日、猫はケージの中でひたすら丸く固まっていた。なお、少しでも猫の気が休まるよう、ケージには上段を覆えるくらいのサイズの布がかけてある。
2日目:一夜あけて、猫はケージの上段で固まったまま。でも、クッションが落ちて水の容器が倒れている。つまり、別室で私が寝ている間は動いていたということだろう。おっかなびっくりケージを開け、保護主さんから教わった通り、もたもたと猫トイレを掃除してみるも、排泄した形跡なし。餌や水に手をつけた形跡もなし。水や餌を入れ替え、少しでも食欲をそそられるようドライフードの餌だけでなく液体タイプの総合栄養食も器に入れてみたが、やっぱり猫は固まったまま。
3日目:猫トイレに排泄物を発見。めっちゃ感動。ただし、餌や水に手をつけた形跡はなし。私がいる時は相変わらずケージの上段で丸く固まったままだけど、でも窓越しに外を見たり部屋のほうに向き直ったり、時々体の向きを変えるくらいのことはしている。
そして夜になると、何やらぴちゃぴちゃくちゃくちゃという音が聞こえてきた。餌も水も下段にしかなく、猫はケージの上段にいるのにどうして?と思ってはたと気づいた。ああ、これは猫の毛繕いの音だ。ああ、ようやく毛繕いできる程度に猫の緊張がとけたんだ——猫の毛繕い、めっちゃみたいが、でもここは我慢しなくちゃダメでしょう、私。
4日目:猫トイレ、おしっこのみ。でもこの日の朝、初めて「にゃん」と鳴く。そしてこの日の夜、上段のクッションの上に置いた小皿に載せたちゅ〜るの総合栄養食を舐めてくれた。初めての食事!
5日目:前の晩にセットしておいた「食事で上手に栄養補給」、上段の小皿の分も下段の器の分も、朝には完食していた。ばんざーい。でも、猫トイレはおしっこのみ。下段に置いたドライフードの餌と水に手をつけた形跡はなし。
この日から、猫が鳴き続けに鳴くようになる。元の保護主さんいわく、これは保護猫あるあるだそうで、元の保護主さんのところでも1ヶ月くらい夜鳴きが続いたそうな。夜鳴きをしてもスルーするのが基本だそうで、別室で寝ていて気づかない私はその点は楽勝だけど、昼間にかわいい声で「にゃん」と鳴き続けられるのは、切なくて苦しい。でも、これも時が経つのを待つしかないらしい。ぐぬう。
6日目:今日も猫トイレはおしっこのみ。つらい。「食事で上手に栄養補給」は割と食べてくれるようになったんだけど、食事の全体量が足りてないのが原因だろうか。
この日も朝から「にゃん鳴き」攻撃。猫ケージの中で何やら荒ぶっていて、荒ぶりすぎてついに私がいる時に下段に飛び降る(またすぐに上段に飛び上がったけど)。荒ぶってほしいわけではないけれど、最初の二日間の固まりっぷりを思えばだいぶ猫が体を動かせるようになった良い証拠にはちがいない。毛繕いの音も、もう珍しくなくなってきた。
7日目(つまり今日):今日も猫トイレはおしっこのみ。つ、つらい。今までは水分補給優先で「食事で上手に栄養補給」をあげてたけど(ドライフードはずっと置いているけど全然食べない)、保護主さんと相談して他の総合栄養食もあげてみることにした。で、カルカンのゼリータイプの総合栄養食を器に入れて下段に置いたら、いきなり上段から飛び降りてくらいついたのでびっくり。さすがカルカン、猫まっしぐらだ!
今日も「にゃん鳴き」攻撃はあったけど、朝に1、2時間ほど続いた後、昼に1時間ほど続く程度で、そういうパターンとわかってしまえば、初めて「にゃん鳴き」攻撃を喰らった時に感じたような心苦しさはかなり軽減した、かな?