それから、3月の末も末に、新規事業部内に、突然の辞令が下った。
朝の打ち合わせの前に、郷田部長が、突然切り出したのは、なんと涼真さんが名古屋へ
栄転するというものだったのだ。
(聞いてない・・・)
確かに、この数週間、忙しくて、ろくにデートもできなかった。
だけど、そんな大事なことを彼女である私にも言ってくれないなんて・・・
それだけ信頼されてないってこと?
私の不満は強まっていき、限界に近付いていた。
もう、これでお終いにしよう。
いつも忙しいからと言って、デートもろくにできなくて不満ばかり溜めていたけれど
ちょうどいい機会かもしれない。
就業時間が過ぎ、涼真さんが、オフィスを出るのを見計らって、私も仕事を終えて
あとに続いた。
「涼真さん」
と声をかけると、仕事中は、いかめしい顔をしている涼真さんが優しい微笑みになる。
私は、躊躇してしまう。
「瑞希さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です、辞令の話、びっくりしました」
「すみません、一言もあなたに、お知らせできず・・・」
「忙しかったんだから、仕方ないですよ」
「しかし・・・」
「涼真さん、私、気がついたんです」
「もう、終わりにしませんか?」
「えっ?」
「私達の社内恋愛も、涼真さんの栄転を機にお終いにしましょう」
「瑞希さん、なぜ、そんなことを・・・」
「涼真さんとと付き合って、1年と少しでしたが、私、いつも自分の気持ちを抑えてました」
「それは、あなたが、私と会えなくて、寂しかったということでしょうか?」
「はい、あと、それ以外にもいろいろあるんですけど・・・多分、名古屋と東京で離れてしまったら
私の気持ちが、涼真さんから、もっと離れてしまうような気がするんです」
「私は、できる限り、名古屋からだろうと、東京にいるあなたの元へ、会いに行きますよ」
「それじゃ、ダメなんです!」
私は、自分でも思いもよらないほど大きな声で涼真さんに訴えた。
涼真さんは、大人だった。
それ以上何も聞かずに、分かりました、と一言だけ告げて、私の元を去って行った。
気付かぬうちに、私の頬には、涙が伝っていた。
終わりにしましょう、と言ったのは私。
私自身なのに・・・しばらく、涙が止まらなかった。
涼真さんが栄転してから、すぐに新しい課長が来るものだと思っていたのだけれど
4月も、もうすぐ終わろうとしているのに、いまだに、新しい課長は決まっていないようだった。
(一カ月か・・・・)
涼真さんと別れてから、一か月、自分でも、自分なりに、その辛さを打ち消すように
仕事に取り組んでいたつもりだ。
別れ話を切り出したのは、自分だったのに、しばらくは、家に帰っては、一人で涙することもあった。
ふと顔をあげると、私をじっと見ている視線に気がついた。
「南雲君・・・」
「あ、ごめん、別に、他意はなくて、その、瑞希さんが、あまりにも仕事熱心だなぁと思って」
「ちょっとー南雲君、それどういう意味?私が、普段は仕事をあまりしていないとでも?」
「違う、そういうわけじゃ・・・その・・・」
「?」
「・・・白鷺課長と離れ離れになちゃったからさ、寂しいんだろうなぁって・・・だから、余計、仕事に熱が
入ってるのかなとか思って・・・」
南雲君は、いつも、そうなんだ。
私が、何も言わなくても、私の気持ちや、思いに気づいてくれる。
涼真さんのお見合いの時に、背中を押してくれたのは、南雲君だったけれど
どうして、私は、もっと先に大切なことに気付かなかったんだろう。
オフィスには、今日は珍しく南雲君と私の二人きり。
創先輩は、出張で、今日は戻らない。
私は、課長のお見合いの時に背中を押してくれた、南雲君の気持ちがどうしても知りたかった。
だから、思いきって聞いてみた。
「ね、どうして、私が、課長がお見合いすると知ったとき、動揺してたことや、課長のお見合い先まで教えてくれたの?」
「それは・・・」
「南雲君は、いつも優しいよね、私が困っているとき、泣きそうな時、必ず側にいてくれる」
「瑞希さんは、意地悪だな」
南雲君は、苦笑すると頭を掻いた。
「僕の本当の気持ちを言えとでも言うのかい?」
「え?」
「ずっと、見てたんだよ、入社した時から、君のことをね、新規事業部で一緒になったときは飛び上るほど
実は嬉しかったんだ、君と一緒になれて」
「私も、南雲君と一緒に仕事ができると思ったら、嬉しかったよ」
「君は、仕事仲間として、単なる同僚としてしか僕を見ていなかったと思うけど、僕は違ってたから・・・」
「南雲君・・・鈍い・・・」
「え?」
「私ね、課長とは別れたの、部長の口から栄転の話を聞いたとき、離れ離れになるのが分かって
思いきって別れ話を切り出したの」
「そんな、お似合いだと思ってたのに・・・・」
南雲君は、驚いた顔をして私をまじまじと見ていた。
「ううん、私ね、気付いたんだ。私が本当に好きなのは、私が、寂しいとき、辛いとき、強がらなくても
いつでも、すぐに気付いてくれる人なんだって」
そう言って、私は、顔をあげて、南雲君の目をじっと見つめた。
「・・・それって、僕のことを好きだって思っていいってこと?」
「南雲君、鈍すぎるよ・・・」
そう言って、私は、南雲君の唇にそっと口づけた。
「だけど、最初に気付かなかったのは、君のほうだよ?」
そういうと、彼は、私の唇に唇を重ねてきた。
寂しいとき
辛いとき
いつも側にいてくれて、ありがとう
これからは、単なる同僚としてじゃなくて
ちゃんと付き合っていこうね?
そして、私から、いつも目を離さないで私だけ見ていてね?
それから、いつか、あなたの隣で、一緒に朝を迎えたい。
終わり
゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆あとがき゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
本当は、もっと長くしようと思ったんですけど
社恋のSSで、あんまり長く引っ張って書いてる人って
いなさそうなんで、切りのいいところで終わらせちゃいましたww
なんか、南雲君の創作だけは、早く終わらせてしまわないと!!
っていう気持ちが強かったんですよねw
甘さは、非常に控えめですねwww
むしろ物足りなさすぎwww
しかも、付き合ってからじゃなくて、付き合うきっかけの部分を書いてるからww
一応、南雲君書けたんで
(本当は、新婚旅行とかに行かせようと思ったんですけど、もうすぐ
社恋も南雲君の続編が出そうなんで、やめておきましたw)
次は、甲斐さんだ!w
しかし、甲斐さんを甘く書くことが、私に出来るのだろうかwwww