この物語は

【小説】奇跡の旗

http://ameblo.jp/hayaken80/entry-12223968610.html

の続編です。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

メンバーの突然の脱退により

エルフロートはミズキ一人になっていた。

 

ミズキのソロ活動という選択肢もあったが

従来3人で活動していたことを考えると

ソロでの活動は縮小感が否めないため

新メンバーを募集することになった。

 

 

オーディションは都内にある事務所で行われた。

 

これまで採用に関してはすべてプロデューサー西山の判断で決められていたが、今回はミズキも同席することになった。

 

 

「今日はよろしくな。」西山がミズキに声をかける。

 

「えっと・・・今日は何人来るんでしたっけ?」

 

西山は手帳をパラパラとめくりながら確認する。

「たしか5人かな。まぁ来ればの話しだけど。」

 

 

 

アイドル戦国時代といわれるアイドル業界。

 

 

メジャーアイドルを除けば

アイドルになること自体の敷居は高くない。

 

 

まずはメジャーアイドルグループに入りたいと思うのが自然な流れであって、エルフロートのような地下アイドルグループはメジャーアイドルグループになれなかった子たちが受けに来ることになる。

 

 

だからルックスがよくて、性格がよくて、ダンス経験があってという即戦力のメンバーを期待するのではなく、未経験でも光るものがあれば採用して育てていく。

 

そんな気持ちで西山は採用してきた。

 

 

 

裏切られることも一度や二度ではなかったが

ミズキのためには今はやるしかないと思っていた。

 

 

 

 

 

 

オーディション開始時刻の午前11時。

 

事務所に訪れたのは一人だけだった。

 

 

「他の子はどうしちゃったんでしょう。」ミズキが不安そうに言う。

 

「よくあることだよ。他の事務所に決まったのかもしれないし、連絡がないって時点で終わってるんだから気にしてもしょうがないだろ。」

なかば投げやりに西山は言った。

 

 

西山は、活動を始めてから辞められるよりよっぽどいいと考えていたが、ミズキの不安は増すばかりだった。

 

 

結局10分ほど待っても一人しか来なかったためオーディションは始められることになった。

 

 

たった一人のオーディション受験者はマアヤという名の子だった。

 

オーディションは歌唱審査とダンス審査が行われた。

 

ダンス審査ではミズキが講師となって

基礎的なリズムの取り方や簡単な振りを覚えてもらった。

 

 

ダンス審査が終わり質疑応答の時間が設けられた。

 

 

 

 

 

 

西山が切り出す。

「おつかれさまでした。オーディションを受けてみてどうでした?」

 

マアヤが答える。

「うまくいったかどうかは分からないですけど全力は出し切りました。」

 

「すごい汗だもんね。」

 

「そうなんですよ。すごい汗っかきで、すぐに前髪がなくなっちゃうんです。」笑いながらマアヤは言った。

 

その後、ミズキが志望動機を尋ねるとマアヤは

歌うこととダンスをすることが大好きなこと、

アイドルになることになかなか踏み出せずにいたが

やっぱり諦めきれなかったことなど

一人でずっと喋っていた。

 

 

オーディションが終わり合否は3日以内に伝えられることになった。

 

 

 

 

 

西山とミズキだけになり合否について話し合う。

 

「ミズキはどう思った?」西山が聞く。

 

「歌がうまい子だなと思いました。私は声が高いほうだと思うんですが、彼女は低音に安定感があるタイプかな。ボイトレしたらもっとうまくなりそう。」

 

「なるほど。一緒にやれるイメージができてるのはいいね。」微笑みながら西山は言った。

 

「あとダンスですが、まだまだうまくはないけどリズム感は悪くないなぁと思いました。」

 

「お、いいね。あとは練習次第かな。未経験でもやる気さえあればなんとかなるだろ。やる気もありそうじゃない。じゃ決まりかな。」

 

西山がそう言った瞬間、ミズキの顔が急に曇り始めた。

「ん! どうした?」

 

「う~ん、悪くはないんですけど・・・」ミズキは言いづらそうに言った。

 

「けど?」

 

「いや、なんかマヤマヤにしちゃいますとか言ってましたよ。」

 

「あ~言ってたね。なんかよく分かんないけど。おもしろそうじゃん。」西山は笑った。

 

「そうなんですけど・・・ちょっと心配というか。」ミズキはうつむき加減で言った。

 

「ミズキだって妖精って言ってるんだからあんまり変わらないだろ。ダンスも歌唱もまずまずだったし合格だな。」渋るミズキを振り切り合格を決めて席を立とうとしたところ急に部屋に飛び込んでくる人物がいた。

 

 

「すいません。遅れました。ごめんなさい道に迷っちゃって。」

息を切らしながら入ってきた女の子はリュックサックと両手にビニール袋を持っていた。

 

突然の出来事に呆然とする西山とミズキをよそに女の子は話し続ける。

 

「あの、あの、あの・・・えっと・・・なんだっけ。あれ? 私なに言おうとしたんだっけ?? あれ、私何を言おうとしたか分かります?」

 

西山は、知らねーよと言いたくなったがそこをぐっとこらえて言った。

 

「とりあえずその両手の荷物置いたら。」

 

「あ!思い出しました。昨日、洗濯機回したら急に水が溢れてきて部屋が水浸しになっちゃったんです、えへへ。」笑いながら彼女は言った。

 

洗濯機ってボタン押すだけなんだけどなぁとミズキは思った。

 

「それで今日は朝からコインランドリー探してたら1つ目のところは閉店してて、2つ目のところは、ここは全部使うおじさんが占領してて、ようやく3件目で洗濯できたんですけど間違えてケータイも一緒に洗っちゃってここの場所が分からなくなっちゃったんです、えへへ。」

 

西山とミズキは、途中のおじさんの話が気になっていたが

これは聞かないほうがいいだろうな思った。

 

完全に笑ってごまかしてる感じもしたが

きっとこの話は本当で彼女なりに反省してる感じもしたので

西山はオーディションを受けてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

名前はモモという子だった。

 

長身でスタイルの良さを感じさせるモモは、

アイドルというよりモデルのほうが向いてるかもしれないと西山は思った。

 

 

急遽、開催された本日2回目のオーディション。

 

 

1回目と同様歌唱審査とダンス審査が行われた。

 

 

合否判定の結果は後日伝えられることになり

モモは事務所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

西山とミズキはオーディションを振り返る。

 

ミズキが話し始める。

「歌については悪くないかなぁって感じです。」

 

「そうだね。ヘタじゃない。」

 

「ダンスはもっとリズム感ないかなと思いましたが意外とダンスもうまくてビックリしました。」

 

「それ俺も思った。ダンス経験はないみたいだから細かいところはいろいろ言いたいことはあるけどリズム感はあるな。ちょっと練習すればうまくなるタイプだと思うよ。」西山は笑顔でそう言った。

 

「でも・・・」またミズキの顔が曇り始めた。

 

「言いたいことは分かるよ。」西山もミズキの考えを察した。

 

「さっきも小鳥と話せるとか言ってましたよ。」不安そうな顔でミズキが話す。

 

「妖精界もとうとう小鳥と話せるようになったか。」笑いながらいう西山を遮るようにミズキが言う。

 

「ちょっと! マジメな話なんです。だいたい遅刻してきたのもそうだし、最初の洗濯機の話なんて何言ってるか分からなかったですよ。あの子絶対ヤバいですって。」真剣な表情でミズキは語る。

 

「うん、あれは俺もまったく理解できなかった。」西山はうなづいた。そして続ける。

 

「変なやつっていうかポンコツっていうかよく分からないところあるのは事実だけど、洗濯機の件が原因で遅れたってことは嘘じゃないんだと思う。他に受けに来た子もいないわけだし、合格ってことでいいんじゃないの。」

 

「えー! 私マヤマヤする子と小鳥と話せる子とやっていくんですか。」ミズキは不安しかなかった。

 

「妖精界もおもしろくなりそうだな。よし、二人とも合格!」

そういうと西山は席を立った。

 

 

今ここにマアヤとモモの二人にミズキを加えた3人体制の新生エルフロートが誕生した。

 

 

ミズキは新たなスタートが見えたことに

一応の安堵を感じながらも

前途多難を予感させる幕開けに

不安な気持ちは増すばかりだった。

 

 

(2話につづく)