口腔扁平苔癬、という病態を耳にしたことはありますか?
疾患、というよりは症状に近いので病態という表現にしました。
具体的には頬粘膜に『レース状』と表現される白い編み目様の粘膜変化が特徴です。
原因は不明、というか様々な要素がありまして
特にHCVウイルスの保菌者との関連性がある報告が1970年代よりくりかえし提唱されてきました。
文献では8-24%と一見高い数字ではありませんが
統計上は有意差が十分あるといえる数字です。
そのため、典型的な口腔扁平苔癬が生じた患者さんには
HBVウイルスやHCVウイルスが体内にないか、すなわち保菌者であるかチェックする必要があると考えます。
HBVウイルスはB型肝炎を引き起こすウイルスであり、HCVウイルスはC型肝炎を引き起こすウイルスです。
近年特にHCVウイルスに対して劇的に効果がある薬品が開発され
それによりC型肝炎の発症率が下がることが期待されています。
肝炎の発症前にウイルスを駆逐することは大変に有意義な治療であり
劇症肝炎や肝がんのリスクを下げる効果的な治療です。
ここまで書いて、何を言いたいかというと
先日、口腔扁平苔癬を疑わせる患者さんがご来院され
ある施設へご紹介と言う形(ウイルスの話も紹介状へ記載しました)をとったのですが
施設からの返事が
口腔扁平苔癬でほぼ間違いないので
含嗽励行指導しました。
がーん…。そりゃ20世紀の治療だよ!
もちろん最初に書いた通り、扁平苔癬はウイルスだけが発症機序というわけではありません。
免疫力の低下というざっくりした前提の元
様々な全身疾患の前駆症状として起きうる病態ですが、
文献や学会報告において関連性が強く示唆される疾患が有り
かつその疾患の治療法が劇的に改善した場合
早期発見早期治療という予防医学の基本中の基本である観点から
相関性の高い疾患への罹患有無は調べて然るべきではないでしょうか。
万一手遅れになって、たらればをいうよりは、
早め早めの対策をとるべきと考えます。
今までは特殊なケースで耳鼻咽喉科への紹介状・照会状は必要に応じて発行して参りましたが
隣接医学への紹介状を特に外科分野では検討しないといけないな、
と強く感じた一件でありました。