『共骨』開幕を迎えるにあたって。 | クレハズム

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間もなく、舞台の幕が上がります。

 

この物語を書きはじめたのは2014年。

翌年に完成した『境骨』という戯曲は、製作会社との都合が折り合わず、上演プロジェクトは中止になりました。


戯曲は書きあがっているのに、物語を誰にも届けられない……悔しかったです。演劇とは、たくさんの人が集まって、多くの時間をかけて、少しの間だけ、限られた場所で上演するというもの。僕ひとりの力では何も発信できません。

舞台を上演するのは、当たり前に思えて、果てしなく難しいことだと思い知らされました。


 

あれから6年。

この度、オフィス上の空プロデュースとして公演を行う運びとなりました。

必ずや代表作にすると誓いました。6年間で培った技術と経験を使って、戯曲をいちから書き直すと決めて、ほかの演劇のお仕事を断って準備を進めました。その10か月は、貯金となけなしの印税で生活しました。新たに『共骨』という物語に生まれ変わり、この度、初日を迎えます。


 

今、で良かったなと思います。

6年前に比べて、僕の舞台を観てくださるお客様も増えて、頼もしいキャスト・スタッフさんも集まりました。かの「彩の国さいたま芸術劇場」で演劇を作れるなんて、昔の自分に伝えても信じないと思います。


こうして皆さまに『共骨』をお届けできることが幸せです。

もちろん、情勢として「いいタイミング」のわけがないというご意見もあるでしょう。残念なことにご観劇が叶わない方も多くいらっしゃるかと思います。とても、とても悔しいです。

同時に、メールやDMで、たくさんの方から激励のお言葉もいただきました。「『共骨』を楽しみに今日も頑張ります!」という旨のメッセージを読むにつれ、奮い立たされる心地でした。

努力は報われるとは限らないし、願いが全部叶うとも思いません。そのなかで、それでも前を向いて生きることが大切だと信じています。信じられたからこそ、演劇を続けてきました。そして公演も続けたいと思いました。


 

オフィス上の空の森脇プロデューサーは、劇場側をはじめ、様々な方面と協議の末に、公演の続行を決めました。僕は演出家として、その方針に賛同しました。

森脇さんは「お客様に安心してご観劇いただけるように環境を整えて、みんなで作ったこの作品を必ず届ける」と言ってくれました。どんなに心強かったでしょう。僕は安心して、引き続き稽古を重ねることができました。


劇場の衛生環境等は、細心の注意をはらって、スタッフさんに整えていただきます。僕は演出家をやります。上質な物語を作ることを目標に生きてきた人間にできることは、その職務を全うするだけです。


 

『共骨』には、今までのすべてを込めました。

家族のかたち、人生の価値、人との縁の物語。

ひとりの人生と、そのなかで交わる人々との縁。

人が死んで、人が生きるということを描きます。

 

物語とは死者のためではなく、生きている人のためにあります。

「やっとわかった。遠くまできたんだ」

そう言えるように。知らない景色をのぞむために。

あなたと、わたしの人生を、ラストシーンから再びはじめたい。


 

僕たちは劇場にいます。

悲しい顔なんて見せたくない。


今日も笑って生きている。

そんな姿を劇場で見てほしい。

 

同じ時代に生きる誰かと手を取り合い、前を向いて生きるために、僕は『共骨』を全身全霊でお届けします。

これ以上のものは作れないかもしれません。作るとしたら、今度は1年ほどお時間をいただきます。



 

ご来場、心よりお待ちしております。

 

 

2020.03.06 

脚本・演出 松澤くれは