転院前のクリニックでは、典型的な3分診療で、3分どころか30秒で終わることも珍しくありませんでした。
 現在のクリニックでは、原則1人あたり10分制限で時間を確保してくれるのですが、大抵時間が余ります。

 親からも知人からも支援機関からもよく言われます。
「主治医とよく相談をして」
「主治医に話を聞いてもらって」
と。
 しかし、私は話し相手を求めて精神科に通っているのではありません。

 短時間で診察が終わると、しっかり診てくれない、投薬するだけ、といった不満を抱える人が多いようです。
 しかしながら、医術の質やレベルは、診察時間とは比例しません。
 外科を例にとれば分かりやすいでしょう。骨折した患者の悩みに、長い時間耳を傾ける医師が名医でしょうか。痛みの緩和や手術方針を素早く見定め、即座に処置を完了させる医師こそ、名医に近いでしょう。

 精神科においては、特に投薬方針が決まっている場合、体調の変化さえ把握できれば、適切な処置ができるのです。些細な変化に対して、いちいち方針変更を練り直す医師は、医術の一貫性に欠けます。
 したがって、私にとって、精神科医は薬屋です。極論ではありますが、割り切る考え方も、受診する際の心構えのテクニックの一つです。

 長時間診療は、待合室で待機中患者の待ち時間を、さらに長くすることになります。
 さらに、時間経過ごとに診療報酬点数は加算されていきます。保険診療医療費の原則7割は公費が負担しています。長時間診療を望む人が増えれば増える程、保険財政は圧迫してくのです。もちろん、自己負担分も増えます。
 もちろん、治療に必要な話であるならば、充分に時間を確保するべきです。
 問題は、治療に直接関わらない話を続けることにあります。

 医師に伝えるべき内容、例えば、薬の効き具合や副作用、現在の体調、治療方針の確認、といったものは、予め整理してから診察に臨んでほしいと思います。
 精神疾患の治療は、服薬が大原則です。社会生活での困りごとの中には、精神疾患由来の物もあります。しかし、話して解決するものではありません。社会生活の前提には日常生活があり、日常生活の前提には精神疾患があり、精神疾患を安定させるためには服薬継続が大前提となります。
 精神科治療の中心が投薬となることには、合理的理由があるのです。

 精神分析・認知療法・森田療法なども、病気の種類によっては効果的です。
 ただし、これらは、医師の仕事ではありません。臨床心理士などカウンセラーの仕事です。

 カウンセリングを受ける際には、予め決め事を合意しておきます。ここが重要です。
 例としては、
1.カウンセリング実施の契約を交わす
2.回数・時間・主題を決定する
3.対価を支払う
4.受け身ではなく主体的に発言する
5.得たものや発見したものは実践に移す
 上記以外の決め事を定めるケースも多々ありますが、決め事がないまま始めるカウンセラーがいたとしたら、怪しんだ方がいいです。
 決め事の設定には、クライアントが自覚性を継続的に持つという効果があるのです。

 時間に余裕があれば、雑談程度に精神科医に悩みを話してもいいでしょう。
 しかし、本当に必要な課題を抱えているのならば、診察の場で話すことは人選ミスです。

 悩み相談事があり、なおかつカウンセリングが適切な場合は、内容を整理してから、カウンセリングを別枠で取りましょう。
 診察をを短時間で切り上げる精神科医に不満を持っても、残念ながら解決は見込めません。