ティファニーブルーのトタン屋根 | こっちにいらっしゃい

こっちにいらっしゃい

春と秋に挟まれた季節の夏になると、青い空と強い日差しを二列に互生した、子供の手のひらサイズと大人の手のひらサイズの、そんなケヤキの葉身が日かげの空間を醸し出してくれる。ときおり一斉に始まるセミの合唱が耳を突く‥‥。

一目惚れしてしまった。こんな気持ち初めてである。

 

恋をされても、恋をしたことはなかった。

 

宇宙(そら)は、なにもかも与えてもらっている生活に物

 

足りなさというか、不安というか、それを感じていた。

 

このことを打ち明ければ、

 

それは贅沢な悩みだと相手にしてくれない。

 

いつも孤独だった。

 

与えられるそんな人生を、悲観的に捉えていたのである。

 

何気なく夜空を見上げた。絶句である。

 

プラネタリウムに浮かんでいるような

 

26万5千個の美しい星々が個性豊かに広がっていた。

 

「ここは別世界だ。初めての経験だ」

星空が綺麗すぎて感動に浸っていた。

 

「夕飯食べ終わったの?」

 一目惚れの娘が声をかけてきた。鼓動が高鳴る。

 

「あなたも?」

 

「終わったからこうして外に出てるんじゃない。わからないのそれが……」

 

「そうだね、ところで名前はなんていうの」

 

「まずは、あなたでしょ」

 

「ごめん、僕は宇宙と書いて宇宙(そら)、谷山宇宙」

 

「わたしは唯桜(いお)、林唯桜よ」

 

 唯桜は5歳上だった。稚すぎる容姿と態度から年上と感じることはできなかったが、同じ孤独を見ている唯桜に心を奪われている。

 

「宇宙は男版コケットね」

 

「コケット?」

 

「コケット、フランス語よ。男好きのするなまめかしい女性。色っぽい女のことよ」

 

「僕がコケットの男版?」

 

「そう、男版よ」

 

「冗談じゃない。そんな男は大嫌いだし、今まで誰とも付き合ったこともないんだよ」

 

「あらぁそうなの。珍しいこと」

 

「ちょっと訊いても良いですか?」

 

「どうぞ…」

 

「どうしてつっけんどんなのですか?僕を嫌いなのですか?」

 

「どうしてなのでしょうね。わたしにも分からない。でも気になっているの」

 そう言って、裏長屋へ小走りで消えていった。

 

 恋心はつのるばかりである。

宇宙は興奮から、その晩は眠れず、朝を迎えた。

ぼんやりと窓を眺めながら唯桜のことを思っている。

自分は恋をしてるのだ――そう自覚する宇宙だった。

 

ティファニーブルーのトタン屋根