一目惚れしてしまった。こんな気持ち初めてである。
恋をされても、恋をしたことはなかった。
宇宙(そら)は、なにもかも与えてもらっている生活に物
足りなさというか、不安というか、それを感じていた。
このことを打ち明ければ、
それは贅沢な悩みだと相手にしてくれない。
いつも孤独だった。
与えられるそんな人生を、悲観的に捉えていたのである。
何気なく夜空を見上げた。絶句である。
プラネタリウムに浮かんでいるような
26万5千個の美しい星々が個性豊かに広がっていた。
「ここは別世界だ。初めての経験だ」
星空が綺麗すぎて感動に浸っていた。
「夕飯食べ終わったの?」
一目惚れの娘が声をかけてきた。鼓動が高鳴る。
「あなたも?」
「終わったからこうして外に出てるんじゃない。わからないのそれが……」
「そうだね、ところで名前はなんていうの」
「まずは、あなたでしょ」
「ごめん、僕は宇宙と書いて宇宙(そら)、谷山宇宙」
「わたしは唯桜(いお)、林唯桜よ」
唯桜は5歳上だった。稚すぎる容姿と態度から年上と感じることはできなかったが、同じ孤独を見ている唯桜に心を奪われている。
「宇宙は男版コケットね」
「コケット?」
「コケット、フランス語よ。男好きのするなまめかしい女性。色っぽい女のことよ」
「僕がコケットの男版?」
「そう、男版よ」
「冗談じゃない。そんな男は大嫌いだし、今まで誰とも付き合ったこともないんだよ」
「あらぁそうなの。珍しいこと」
「ちょっと訊いても良いですか?」
「どうぞ…」
「どうしてつっけんどんなのですか?僕を嫌いなのですか?」
「どうしてなのでしょうね。わたしにも分からない。でも気になっているの」
そう言って、裏長屋へ小走りで消えていった。
恋心はつのるばかりである。
宇宙は興奮から、その晩は眠れず、朝を迎えた。
ぼんやりと窓を眺めながら唯桜のことを思っている。
自分は恋をしてるのだ――そう自覚する宇宙だった。