僕がこの道に、託されているもの。 | ハタタケル 1日1回幸せブログ[ハタぶろぐ]

僕がこの道に、託されているもの。


 
それは
ある日、新幹線に乗っていた時の
ことだった。
 
僕は指定席を取っていて
となりの窓側の席はしばらく誰も
座ることはなかった。
 
途中、とある駅につくと
前から杖を突いたおじいさんが
歩いてきて
そして、僕の席の隣でとまると
その席の番号を見始めた。
 
「あ....おじいちゃん、この席ですか?」
 
僕がそうきくと
そのおじいさんは番号を
確認してうなずく。
 
僕は席をたって、
窓側の席に通すと
おじいさんは杖を座席の前にかけて
座った。
 
”おじいさん、これから一人で
どこにいくんだろう。”
 
僕はそんなことを何気なしに
思ったが、そのまま
しばらくして
ノートに言葉を書き始めていた。
 
それから1時間ほど
経ったときのことだろうか。

窓を眺めていた
おじいさんがふと、僕に
話しかけてきたのだ。
 
「おまえさん、何、書いてるだね。」
  
僕はあれからずっと言葉を
ノートに書き綴っていて
気がつくともう8ページ近くに
及ぼうとしていた。
 
そんな僕に興味を示したのだろう。
 
僕は音楽を聞いていたイヤホンを
はずすと、笑いながら答えた。
 
「あ.....ちょっと、思いついたこと
書いてまして.....」
 
「ほぅ...。たいしたもんだ。
そんなに言葉が出るんかいね。」
 
「えぇ....なんででしょうね。」
 
僕はそう笑うと、おじいさんは
 また窓から外を眺め始めた。
 
僕はまたノートに向かって
言葉を書き始めたが、
ふと、そのおじいさんのことが
また気になり始めてしまった。
 
そして、僕は
ペンを動かすことをやめると
おじいさんに話しかけた。
 
「おじいさん、今からどこ行くんですか。」
 
そういうと
おじいさんはちょっとだけ僕をみて
いった。
 
「これから東京にいって個展さ見るだ。」
 
「個展...ですか?」
 
そうだ、とおじいさんは
うなずく。
 
おじいさんはちょっと寡黙な感じが
するが、その奥には色々なことを
受け止めてきた
そんな目をしていた。
 
そして、僕は聞いた。
 
「個展、好きなんですね。」
 
「あぁ、昔からだ。」
 
「何の個展ですか?」
 
「洋画だ。」
 
「洋画って....海外の絵ですか?」
 
「そうだ。」
 
「なんで興味があるんですか。」
 
そういうとおじいさんは
少し考えていった。
 
「その時代の.....背景が
そこにはあるからじゃよ。」
 
僕はその意味がはじめ
よくわからなかった。
 
そんな僕を見てか見ないでか
おじいさんは続けて
前をみながらいった。
 
「ワシは.......戦争に行っての、
最後に思ったことがあるんじゃ。」
 
僕は黙って聞いている。
 
「戦争が終わるころな、特攻兵を
志願された。
手を挙げさせられてな。
「この国のために命を掲げるものは
おらんか」とな。

ワシはそのとき....
手が挙げられんかった。
なぜなら、
ワシはそのとき気づいていたんじゃ。

この戦争は、もう、負けじゃ、と。」
 
おじいさんは昔のことを
一つ一つ思い出すように
語る。
 
僕は固唾を呑んでじっと
話を聞いていた。
 
そして、おじいさんはいった。
 
「そのときの、ワシは思ったんじゃ。
戦争はもう、やってはいかん、と。
そして、そのためには
色々と人が学ばないかん。」
 
「それは...。」
 
「そこにある時代背景や絵などを
みると、ワシは
そんな昔のことを思い出すんじゃ。
そして、
今でもそこから学んでいるんじゃ。」
 
僕はいつの間にか
おじいさんの方をじっとみて
話を真剣に聞いていた。
 
そして、僕はおじいさんに
一つだけ聞いてみたいと
思ったことがあった。
 
僕はしばらくの間があったあと
おじいさんにきいた。 
 
「ねぇ、おじいさん。」
 
「.....ん?」
 
「人生で一番大切なことって、
何ですか。」
 
するとおじいさんは
少し考えるように
しかし、
間髪おかずに僕のほうを見て
言った。
 
「やるときにやること.....じゃな。」

「それは....思ったらやる、ということ
ですか。」

「そうじゃ。」
 
「そうですよね、大切なことですよね。」
 
こくんと、うなずくと
おじいさんはいった。
 
「そうしないと人はいつか
後悔するから、の。」
 
その一言を聞いたとき、
ズシンと
その想いが僕の胸に、のった。
 
そのおじいさんの裏にある
色々な思いを
強く、感じたのだ。
 
僕は少しその言葉を
慎重に受け止めると、
おじいさんにきいた。
 
「後悔したこと....
おじいさん、あったんですか。」
 
「あぁ、たくさんある。」
 
僕は黙って聞いていた。
 そしておじいさんはいった。
 
「もう今は一人じゃがの。
思うんじゃ。
もしも、戦争で
自分の代わりに死んでいった
ものたちが今生きていたら....。
 
ワシはあのとき手を挙げんかった。

でも、何よりも目の前で死んでいった
友人たちのことを今でも
思うんじゃ。」
 
おじいさんの目には
色々な光と影が交錯していた。
 
そして、その言葉の裏には
僕に、しかし確かに
 
「一生懸命、後悔しないように
正直に、生きなさい。」
 
と、
 
伝えてくれていたメッセージが
そこには

あった。
  
新幹線も、まもなく上野につく。
 
「....ここじゃの。」
 
そういうと、
おじいさんは杖をとり、席を立つ。

僕は席をあけ、
そして、おじいさんに言った。
 
「おじいちゃん、どうかこれからも
元気で。
素敵な個展、たくさん
見に行ってね。」
 
そういうと
今までずっと強面でいた
おじいさんは
 顔をくしゃっとすると
 
にこり、と笑った。
  
そして、
杖をもった反対の手を
 
周りのみんなにわからない
ぐらいに小さく、
 
しかし
しっかりと僕の前に、
差出した。
 
僕に握手をしてきたのだ。
 
僕はその手に気がつき
おじいさんの
分厚い手を握ると、
 
おじいさんに笑いかけた。
 
プラットホームで杖をついて
歩いていくおじいさんを
電車の中から眺めて
心の中で僕はつぶやいた。
 
「おじいさん、どうか元気でね。」
 
 
 
もう多分、
あのおじいさんとはあうことは
ないだろう。
 
でも、僕の手には
おじいさんと最後に
握手をした、あのときの
ぬくもりが今でもしっかりと
残ってる。

そう。 
僕は思った。
 
あのとき
 
僕は
おじいさんから「何か」を
受け継いだのだ、
 
と。
 
そして、それは受け継いだのと
同時に、
おじいさんに想いを握手を通して
 
”託された”

そんな気がした。
 
いつの時代も
きっと人は、こうやって
わたってゆく。
 
人から人へ。
 
心から心へ、
 
と。
 
僕たちはいつだって
誰かのそんな
想いを受け取って
今を生かしてもらっている。
 
そして、
 
こうやって
人は誰かの「命」をもらって
今日を生きているのだ。
 
 
僕はおじいさんが手を差し出して
僕に握手をしてくれた
あのときのことを
ずっと忘れない。
 
 
僕はこんな
託された思いをむねに
今日もこの道を、歩いている。