2月10日、谷保・かけこみ亭、館野公一さん企画「語り歌の継承 vol.81」で

歌って来た。館野さんは、物事、事件、出来事などを歌にする自分のスタイルを

語り歌と名付け、ギターやマンドリンを弾きながら歌っているのだが、今回、

たっぷり共演してみて、私が暮らしたアフリカのグリオのようだな、と思った。

 

 伝統的な太鼓や弦楽器を鳴らしながら、語り継ぐべき人や出来事について歌う

グリオは、語り部であり、吟遊詩人であり、ニュースキャスターであり、預言者

でもある。時の政権に対して、世界の不公正に対して、激しく楯突くこともある。

館野さんの歌の中にも、それを感じるし、私の歌の中にも、それが流れているな、

と思った。

 


 最初に、館野さんがマンドリンを弾きながら15分。

その後、私がギター弾き語りで60分。館野さんのギター弾き語りが60分。

最後に、二人で一緒に演奏した。

 



 館野さんの歌は、実際に起きた社会的事件を題材にした

「ボパールの悲劇」や「砂川の空」、水俣病の被害を撮影し、

世界に知らしめた写真家ユージン・スミスの人生にスポットを当てた

「海辺のフォトグラファー」のような歌があるかと思えば、ひねりの利いた

ストーリーで唸らせる「箪笥」や「富士見ヶ丘ストーリー」など、幅広い。

突然、家事、育児をやることになって慌てる男を描いた「家仕事」も楽しい。

愛猫との21年間の暮らしと死別を描いた「小梅の庭」がせつない。

 



 新曲「船が見た3つの夢」は、アメリカの水爆実験で被爆した

日本のマグロ漁船第五福龍丸が一人称で語るもの。

 

 被爆だけが有名だが、その前後にも、いろいろなことがあったのだ。

船にも青春があり、若者達を見守る老年期があり、打ち捨てられたと

思ったら、また引っ張り出される数奇な運命がある。

そんな彼が語り出す、自分達だけではない、世界の被爆者、

核実験の犠牲者達の実態。被害者であると同時に加害者でもある

日本の歴史。声なき声に耳を傾けよ、と。


 1955年、在日米軍が立川飛行場の拡張を日本政府に要求し、地域の農民達が

反対して闘った砂川闘争。農民達に共感し、労働組合や学生やお坊さん達も

駆けつけ、女性達も座り込み、2000人の機動隊に殴られ、蹴られても抵抗し、

遂に日本政府も米軍も土地を奪い取るのを諦めたこと。そうか、日本でも

そんなことが可能なのか、と、館野さんの歌で知り、勇気づけられた。

 


 ユージン・スミスが、水俣病に苦しむ人々の家に毎日通い、信頼関係を

築くまではカメラを向けず、3ヶ月の滞在予定が3年になったこと。

だからこそ、撮れた写真なのだと納得した。彼自身も、沖縄戦で被弾した

後遺症に苦しみ、流動食しか食べられなかったことも初めて知った。

 

 このようなひどい被害があると記録することは大切だが、彼の写真は、

その先にあるものを写そうとする。「入浴する智子と母」は、胎児性水俣病

患者の少女を母親が抱いて風呂に入る写真だが、モノクロの、神々しさすら

感じさせる写真で、だからこそ、人々の記憶に残るのだ。

 私は、アフリカ暮らしで生まれた歌から始めた。駆け落ち同然でここまで

来たのに、アフリカ人の夫とはすれ違いの日々で、もう一度やり直そうよ、

と、膝を叩きながら作った「二人で店を持とうよ」。ケニアのスラムの子供達

との出会いから生まれた「シャンティ・タウン」。ケニアのスラムに生まれ、

スラム改革運動のリーダーをしている詩人の友達、テンパ・テラーに捧げた

「革命家の休暇」。テンパさんのことを知ってほしくて、彼の詩も朗唱した。

 



 思えば、自分の語り歌にも、いろんなベクトルがある。

 

 「革命家の休暇」や、在日コリアン二世の友人、黄秀彦さんを思い、

日本と朝鮮の歴史を思って作った「朝鮮語で語りかけてください」のように、

大切な他者を描きつつ、語りかけるように作った歌。

 

 「おふくろの手料理」や「母恋唄」のように、自分の気持ちや体験を

物語のように描いた歌。悲しみを整えつつ、乗り越えるには、それが一番、

自然な方法だった。

 

 

 「俺と赤兎の物語」のように、歴史上の人物に、自分がなってしまった

歌もある。外から描こうとしたら描けず、何だ、呂布は私じゃないか、

と思ったら、一気に降りて来た。

 

 15の時に死に別れた父の少年時代に自分がなってしまった「雪の夜」。

そうすることで、生前はわからなかった父の気持ちがわかる気がした。

 

 「夜の髪~白川和子に捧ぐ~」のように、菩薩のようなロマンポルノ女優を、

語り部のように描いた歌もある。館野さんとの共演で、無自覚だった部分も、

見えて来た気がする。

 

 

 不思議なのは、前日まで歌う予定のなかった「トラジ~中山ラビに捧ぐ~」を、

突然、歌いたくなり、セットリストに入れたのだが、かけこみ亭に着くと、

中山ラビの似顔絵が描かれた「ひらひら」の大きなアルバムジャケットが。

ラビさんの目に見つめられながら歌った。

 最後は、被災地の復興と人間の復興を願い、東日本大震災の三日後に作った

「家でテレビを観ているよりも」を歌った。

 

 

 この世のものとは思えぬ揺れに、このままビルが折れ、がれきに埋まって

死ぬのか、と思った時、戦争や原爆やテロで突然、人生を断ち切られた人の

無念が私に押し寄せ、稲妻のように閃き、つながった!と思った。

だから、拾った命でライブをやり、裸電球の下で、歌やギターや太鼓で集い、

原初の力が蘇ったのだ。いろんな国の人がいた。歌の意味はわからなくても、

歌の心が届いた。それを伝えたいと思った。

この日も、かけこみ亭のうす暗がりの中で、何かが伝わった気がした。

 互いのステージの後、館野さんと二曲セッション。アメリカ民謡に浅川マキが

絶妙な日本語詞を付けた「朝日楼」と、岡本おさみ作詞、吉田拓郎作曲の「落陽」。

 

 「朝日楼」は、館野さんのマンドリンの音色に聴き惚れ、気持ち良く歌うことが

出来た。歌う人の人生を反映する、不思議な歌だ。

 

 

 「落陽」は、荒ぶる心が爆発し、楽しかった。何と、岡本おさみと館野さんは

知り合いで、ばくち打ちの爺さんがくれたサイコロは、本当は一つだった、

と教えてくれた。それを拓郎の意見で、二つに変えたのだ、と。

 

 おまえは堅気なんだから、俺のようになっちゃいけないぜ、とサイコロを

一つしかくれなかった爺さんと、いや、あんたの後を継ぎたいんだ、と

サイコロを二つにした拓郎。そんなことを想像した。

語り歌の継承にふさわしいセッションになった。

 



 誘ってくれた館野さん、観に来てくれたお客さん、かけこみ亭店主の

ぼけまるさん、本当にありがとう。打ち上げの席で出してくれた、

ぼけまるさんの玄米カレー、玄米の炊き具合も程良く、野菜たっぷり、

大豆、人参、キャベツ、きのこ、皮付きジャガイモがほくほくで、

びっくりするほど、美味かった。

 大切なこと、伝えたいことを、歌に刻んで語り継ぐ。

語り歌の継承、私も続けたい。

 

 

Photos by よしあきさん、ペピータさん、ラビィ

 

 

~蓮沼ラビィ 近日ライブ~

 

●2月27日(火)高円寺・抱瓶

 



黄秀彦企画
「殺すな 戦争やめろ」

開場:18時 開演:19時
料金:2000円+オーダー

出演:黄秀彦、華村灰太郎、テゴダン、朴保、蓮沼ラビィ、
宮城善光、高橋貫太郎、柴田エミ

予約:炎の沖縄居酒屋 抱瓶03-3337-1352

 

抱瓶
東京都杉並区高円寺北3-2-13
TEL: 03-3337-1352

 

 

●3月9日(土)野方・焼酎場ぁ~ くんちゃん

蓮沼ラビィ×マリリンジェット2マンライブ
「さすらいのギターウーマン」

 



 ギター一本で闘う覚悟の女二人旅!

 開場:18時 開演:18時半
 料金:2000円+店代金(お通し500円+飲食代)
 出演:蓮沼ラビィ、マリリンジェット

18:30~19:30 マリリンジェット

19:45~20:45 蓮沼ラビィ

20:50~ 二人でコラボ
 

◆マリリンジェット

 


女3Pのバンド「黒い太陽」、アコースティックバンド「犬小屋」、

ユニット「いのちの母」そして、ソロ「マリリンジェット」で横浜、

都内を中心にライブ活動しています。
日本語詩と世界観を大切したオリジナルをやっています。
音楽と珈琲と動物とアニメが好きです。

 

◆蓮沼ラビィ

 



アフリカ帰りの任侠ブルース。
アフリカ人と結婚してケニアに暮らし、離婚後、帰国。
46歳で初めてギターを手にして、作詞作曲、ライブ活動開始。
事情を抱えた家族の歌や菩薩のようなロマンポルノ女優に捧げる歌、

在日外国人との共生や東日本大震災後の人々の無関心さを訴える歌など、

社会性と物語性あふれる歌を書き、大地のような温もりとパワーで歌い続ける。

CD:『劇中歌』『家でテレビを観ているよりも』『革命家の休暇』

 

 

~ライブ会場~

焼酎場ぁ~ くんちゃん
東京都中野区野方5丁目16-6
03ー3310ー5023

 

 

☆西武新宿線「野方」駅南口から徒歩5分。駅の階段を下り、商店街を左。

ヤッホーROAD手前、松屋の角を右、十字路を左(みつわ通り)。

セブンイレブンと小さな公園を過ぎると、立て看板あり。

 

 

●3月10日(日)蒲田・オッタンタ

 

 

「Remember 3.11」

 

開場:16時 入場無料
 

★募金箱設置

★チャリティーオークション
家にある不要になったけど捨てられないものなど持ち寄り来場者でオークション!
人から人へモノを繋ぎ売り上げは義援金へ!
*集まったお金は能登半島地震の支援金として寄付します。

★東北特産のお酒や食材を使ったフードを用意しようと思ってます♪

 

 

●4月7日(日)荻窪・Doctor's Bar

 

 

☆寸愚良(蓮沼ラビィ、谷口カズヒト、ソメ)と、

ヒロウエキ&Gentle Horseのツーマンライブ。

寸愚良は、新曲をひっさげて登場。ぜひ、お越しください!