2184・秋山乎 謹人懸勿 忘西 其黄葉乃 所思君
あきやまを ゆめひとかくな わすれにし そのもみぢばの おもほゆるきみ
訳:秋の山を 決して一緒にしてはいけません 忘れてしまう
その(秋の山の)黄葉の葉と (今も)想われるあの方を
**「ひとかく」は「一対としてならべる・一緒にする(下二段終止形)」。
*秋の山と彼を一緒にはしないで下さい。秋の山の黄葉は忘れても、あの人のことは
ズーと想っているのですから
2187・妹之袖 巻来乃山之 朝露爾 仁寶布黄葉之 散巻惜裳
いもしそで まききのやまし あさつゆに にほふもみぢし ちらまくをしも
訳:彼女の袖を 巻きつけてきた山の 朝露に 美しい黄葉が
散ってしまうのは残念ですね
**「まきき」は「寒さのためか(袖を身体に)巻き付けて来た」という描写でしょう。
勿論巻き付けたのは彼氏(この詠手)の身体です。
*寒くて、彼女の袖で温めてもらいながら来たけれど、あの朝露で輝いていた黄葉は、
もう散ってしまうのかなあ。素敵な思い出だったのに!
2188・黄葉之 丹穂日者繁 然鞆 妻梨木乎 手折可佐寒
もみぢはし にほひはしげし しかれども つまなしのきを たをりかざさむ
訳:黄葉は愛しく 鮮やかな色合いは沢山あります でも(私は)妻無しの梨の木を
手折って翳しましょう(顔を隠しましょう)
**「もみぢはし」は「もみぢ愛(は)し」、この気持ちとしては(私には黄葉を一緒に楽しむ
妻が居ないので)。
*独り者なので、妻と黄葉を楽しむ男達が羨ましいな!
でも、そっと顔を隠して、独りで黄葉を楽しんでもいいでしょ?
2189・露霜乃 寒夕之 秋風丹 黄葉爾来毛 妻梨之木者(露霜乃)は(元:露霜聞)
つゆしもの さむきゆふへし あきかぜに もみぢにくるも つまなししきは
訳:露霜が降りる 寒い夕暮れの 秋風の中で 黄葉が見たくなるのだなあ
妻無しの梨の木は(妻無しの私は)
**「もみぢにくる」は「黄葉に(気持ちが)行く」。
*寒いときに暖めてくれる彼女が居ない身では、黄葉ぐらいしか
想い慕う相手がないのです(梨の木を妻のいない自分に重ねています)
2202・黄葉為 時爾成良之 月人 楓枝乃 色付見者
もみぢなす ときになるらし 月の日と かえでのえだの いろづくみれば
訳:葉が紅葉する 時期になるようです その頃の日と思われる
楓の枝(の葉)が 色づいてきたのを見ると
**従来「月人」を「月人男」のこと、として「楓」を「桂」と読み替えています。
確かに「月人男と桂」はセットになりますが、「月人と楓」を無理に「月」にちなむセット
にするのには抵抗があります。作者が「月人男」を知っていたら、ここは「楓」では無くて
「桂」と書いたはずです。どちらも紅葉は綺麗なのですから。
「月の日と」と読んで「紅葉になる月の紅葉になり始める日頃と(思われる)」、と解釈い
たしました。尚「楓」は通称「もみぢ」とも言われています。
*我家の楓の葉が色づいてきたのを見ると、もう紅葉の季節なのですね。
そろそろ綺麗な山の黄葉でも見に行こうかな