万葉集のつまみ食い201 | 日本の古代探索

日本の古代探索

古事記・日本書紀・万葉集の文や詩を通して我々の先祖の生きざまを探ってゆきたいと思います。

2149・山邊庭 薩雄乃禰良比 恐跡 小牡鹿鳴成 妻之眼乎欲焉

 

   やまべには さつをのねらひ かしこしと をじかなくなり めしめをほるや

 

 訳:山のほとりでは 漁師が狙っていて 恐ろしいよと 雄鹿が啼くのですよ 

   雌鹿に それをわかってほしいと思ってでしょうか

 

**「さつを」は「猟師」。「め(妻の鹿)し(が)め(目:見つける)をほるや」は「雌鹿が 

  (猟師を)見つけてくれることを(気が付いてくれることを)願っているのか」。

 

 *この詩は「雄鹿が自分の危険を顧みずに雌(妻)の鹿にそれを知らせて鳴いているのでしょ 

  うか」という意味と取りました。

  牡鹿の鳴き声を人間の振る舞いに重ねるほど、当時の歌人達には、鹿が愛されていたのです 

  ね

 

2171・白露 與秋芽子者 戀亂 別事難 吾情可聞

 

   しらつゆを まつあきはぎは こひみだれ わくことかたき わがこころかも

 

 訳:白露を 待っている秋萩は 戀慕い乱れて わきまえることが出来ないほどの

   私の心のようですかね(そんなこと無いかな)

 

**「與」は「待つ」。「わくことかたき」は「わきまえることが出来ない」。

  「かも」は反語。

 

 *秋萩だって、白露を待ちわびているに決まってる、と思いたいな。

2175・日来之 秋風寒 芽子之花 令散白露 置爾来下

 

   ひごろこし あきかぜさむし はぎしはな ちらせしらつゆ おきにくるしも

 

 訳:この頃やって来た 秋風は寒いです 萩の花よ 振り落としなさい白露を 

   (白露が)降りてきたらいっそ(倒置文)

 

**「ひごろ」は「数日」。「令散」は「散らしむ:散らせ」で「散らす」ではありません。

  「しも」は副助詞で連体形を受けて「~にもかかわらず、かえって」。

 

 *萩の花よ、ただでさえ風が冷たいのに、白露が着いたらもっと寒いよ。秋風を使って、その 

  冷たい白露は落としてしまいなさいな。

  萩の身を案じています。萩が可愛くてしようがないのでしょう

 

2179・朝露爾 染始 秋山爾 鐘禮莫零 在渡金

 

   あさつゆに そめはじめたる あきやまに しぐれなふりそ ありわたりかね

 

 訳:朝露で 色づき始めた 秋山に 時雨の雨は降らないで下さいね 

   見に行けません

 

**「ありわたり」は「ありわたる:変わらずに時を過ごす・或いは、行って(見て)ゐる・通

  ひつづける」の連用形。最後の「金」は「かね」で「がね」と読むのは間違いでしょう。

  「かね」は「かぬ:~することが出来ない」の連用形、で「がね」は終助詞で「~してもら

  いたい」。

 

 *時雨が降っていなくも秋の紅葉の鮮やかさは変わりません。

  雨上がりの紅葉は、更に美しいことでしょう。だからといって

  いくら綺麗でも、見ている途中に時雨に遭うのはちょっと・・・。