2149・山邊庭 薩雄乃禰良比 恐跡 小牡鹿鳴成 妻之眼乎欲焉
やまべには さつをのねらひ かしこしと をじかなくなり めしめをほるや
訳:山のほとりでは 漁師が狙っていて 恐ろしいよと 雄鹿が啼くのですよ
雌鹿に それをわかってほしいと思ってでしょうか
**「さつを」は「猟師」。「め(妻の鹿)し(が)め(目:見つける)をほるや」は「雌鹿が
(猟師を)見つけてくれることを(気が付いてくれることを)願っているのか」。
*この詩は「雄鹿が自分の危険を顧みずに雌(妻)の鹿にそれを知らせて鳴いているのでしょ
うか」という意味と取りました。
牡鹿の鳴き声を人間の振る舞いに重ねるほど、当時の歌人達には、鹿が愛されていたのです
ね
2171・白露 與秋芽子者 戀亂 別事難 吾情可聞
しらつゆを まつあきはぎは こひみだれ わくことかたき わがこころかも
訳:白露を 待っている秋萩は 戀慕い乱れて わきまえることが出来ないほどの
私の心のようですかね(そんなこと無いかな)
**「與」は「待つ」。「わくことかたき」は「わきまえることが出来ない」。
「かも」は反語。
*秋萩だって、白露を待ちわびているに決まってる、と思いたいな。
。
2175・日来之 秋風寒 芽子之花 令散白露 置爾来下
ひごろこし あきかぜさむし はぎしはな ちらせしらつゆ おきにくるしも
訳:この頃やって来た 秋風は寒いです 萩の花よ 振り落としなさい白露を
(白露が)降りてきたらいっそ(倒置文)
**「ひごろ」は「数日」。「令散」は「散らしむ:散らせ」で「散らす」ではありません。
「しも」は副助詞で連体形を受けて「~にもかかわらず、かえって」。
*萩の花よ、ただでさえ風が冷たいのに、白露が着いたらもっと寒いよ。秋風を使って、その
冷たい白露は落としてしまいなさいな。
萩の身を案じています。萩が可愛くてしようがないのでしょう
2179・朝露爾 染始 秋山爾 鐘禮莫零 在渡金
あさつゆに そめはじめたる あきやまに しぐれなふりそ ありわたりかね
訳:朝露で 色づき始めた 秋山に 時雨の雨は降らないで下さいね
見に行けません
**「ありわたり」は「ありわたる:変わらずに時を過ごす・或いは、行って(見て)ゐる・通
ひつづける」の連用形。最後の「金」は「かね」で「がね」と読むのは間違いでしょう。
「かね」は「かぬ:~することが出来ない」の連用形、で「がね」は終助詞で「~してもら
いたい」。
*時雨が降っていなくも秋の紅葉の鮮やかさは変わりません。
雨上がりの紅葉は、更に美しいことでしょう。だからといって
いくら綺麗でも、見ている途中に時雨に遭うのはちょっと・・・。