海外進出とは時に不条理なもの | 米国公認会計士のフィリピン税金や法律のあれこれ
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こんにちは、米国公認会計士の橋本です。

 

皆さんは会社がどのように設立されるかご存知でしょうか。

日本ではまず定款というものを作成します。定款とは会社の資本金の額や、所在地、株式の種類、発起人など設立に必要な情報を形式通りに記載したものです。 他には取締役会や監査役の有無、役員数を記載したり、その他、会社の組織構成に必要な情報を記載してそれを公証人に交渉してもらうところから始まります。 少しでも記載事項に誤りや誤字脱字があると必ず修正させられて完璧になるまで手直しさせられます。 定款の作成に慣れていないとこの修正に思いのほか時間がとられて予定の設立日に間に合わなくなることもあったりします。

 

 公証が終わると、それを法務局にもっていき、資本金がきちんと入金されていることを証明する通帳のコピーやその他の申請書類を一緒に提出して登録を待つこととなります。

 

 これら一連の手続きは慣れればどうということはありません。

 

 ではフィリピンではどうでしょうか。フィリピンでも同じような手続きを経て設立されますが、定款申請から登記まで証券取引委員会が行います。そこでも日本同様或いは日本以上に厳しい定款のチェックが入ります。 問題となる箇所は数多くありますが代表的なものをいくつかあげたいと思います。 まず、会社の所在地や発起人の住所地に関しては番地がきちんと記載されていなければいけません。 番地の記載はSECやその他の役所から通知が送られる際にそれがないと書類が届かないなど事務処理上の問題になることもあり非常に重要なものになります。

 

 それから事業目的ですが、事業目的は外資規制に抵触するモノであってはいけないということです。フィリピンには外国人が営んではいけない或いは一定の規制の下にのみ行える業種というものがあります。それらを事前に調べて事業目的が外資規制に抵触しないように書いておくととなります。

 

 そして問題となるのは種類株式の発行時に、創業者株式を誰に付与するかという問題があります。創業者株式というのは創業後5年以内に役員人事権を行使できるという強力な株式でありますが、それゆえ外国人が保有するとアンチダミーの形式証左として推認されてしまいます。 (※アンチダミーとは外資規制の対象にある事業が規制の回避を目的として実質的に外国人支配下にある組織形態を書類上フィリピン人が支配しているものとカモフラージュすることに対する規制をいう)

 

 そのほかいくつも訂正箇所が指摘され設立の第一関門であるSECへの登録申請が思いのほか進まないことがあったりします。アンチダミーの疑いをかけられてしまうとこの会社の設立申請はいくら訂正してもなかなかOKをもらえることがありません。そうなると検査官は必ず次の書類上の不備や疑問点の説明を求めてきます。

 

 書類検査に引っかかれば、その疑惑を晴らすためにSworn CertificateやSecretary Certificateなどいくつもの追加の書類の提出を求められることがあります。 それでもなかなかOKをもらえることが出来ずに諦めて、新しく申請しなおすか、疑惑を晴らす手続きを進めるかの選択を迫られます。 疑惑を晴らす手続きはまさにSECと申請者との根競べ状態になり申請は硬直状態に陥ります。

 

 そうなると多くの人はこの会社の登記申請をあきらめざるを得ません。手続きにかかる申請の仕方や方法を間違えると決して申請が承認されることはありません。 どんなに準備に時間を使ったとしても申請をあきらめて取り下げるか、手続きに際してSECの疑念を晴らすために奔走するためにさらに多くの時間と労力を費やすしかなくなることでしょう。

 

 SECだけでなく、市役所、バランガイ(自治会)、税務署などその後、立て続けに手続きが控えているだけでなく、教育機関であればTESDA、人材派遣会社であればPOEAへの申請、輸出入を目指すのであれば輸出入ライセンスの取得と様々な手続きを経て事業が開始されます。 中には手続き途中に資金が尽きて事業を開始することなく撤退に追い込まれる会社も存在します。

 

 いくら有能なコンサルタントに依頼したとしてもこの東南アジア独特の冗長なプロセスは避けては通れず、依頼されたコンサルタントは手続きかかる時間の経過とともに依頼主から無能や役立たず呼ばわりされることもしばしばです。

 

 しかし、これらの長くて煩雑な手続きをいくつもこなして事業化にこぎつけた会社やその担当者には時々面白いことが起こります。

時間の経過とともに事業計画が遅れて経費も予算を大幅に超過しているにもかかわらず、駐在員だけでなく日本の本社のマネジメント層までもが海外進出とはこういうことを言うのだということで後に少々のことが起こっても動じなくなってきます。精神的に強くなってくるのです。

 

 一つ一つの手続きをするたびにいくつもの困難で長いプロセスを経ることとなります。それはどんなに語学堪能で優秀な現地駐在員に手続きを任せようが、日本でどんなに有名で大きな企業であってもフィリピンの役所はそれらを一切考慮したり優遇することがありません。そして何度も挫折や失敗を繰り返します。それは駐在員だけでなく海外進出を許可した日本のマネジメント層にとっても辛いものになるかもしれません。海外進出への夢や希望をくじかれる瞬間でもあります。

 

 しかし世界は単一民族や同じ考え方の人の集まりではありません。その国や地域の人びとのやり方や考え方を受け入れる勇気も必要になります。

 

 海外進出とはいわば全く異なる異世界への挑戦です。 自分が今まで育ってきた小さな世界の考え方や道理が通用するということはむしろ少ないことでしょう。

 

  全く知らない世界に飛び込むということで今までの価値観や考え方が打ち砕かれることも多いことでしょう。とりわけ外国に行くということは日本人にとって不合理で不条理な考え方が支配する世界に飛び込むようなことかもしれません。 世界は理解不能な不条理に満ちています。

 

 しかし新しい世界に飛び込もうとする人にはもう一つの選択肢が常に与えられています。それはその国での事業を諦めて撤退するという選択肢です。 撤退するということに関しては誰に許可を求める必要がなく、ただひっそりと引き上げていけばいいのです。誰しも退却する自由が与えられています。 資格を目指すことにしても、プロのスポーツ選手になるにしても、公務員や大企業への就職を目指すにしても誰に断る必要もなくただ静かにそこから撤退していけばいいのです。

  

 コロナウイルスの蔓延により世界はまた大きく変わろうとしています。 人びとの世界は三蜜回避に向けて動き出そうとしていますが、それは目に見える現象面の変化に過ぎません。

 

 これからの世界がどのように変わっていくことは人それぞれが予測してそれに向けてうごけばい動けばいいことでしょう。しかしたとえどのようなことが世界で起ころうとも、ここから待ち受ける世界は思いもよらない不都合で不条理に満ちているのかもしれません。

 

 ウイルスが原因で自身の勤めている会社を解雇された方もいらっしゃるでしょう。仕事や収入を失った方も多いでしょう。 ウイルスが原因で人と人との間に溝ができてしまったと感じている人もいらっしゃることでしょう。 

 

 しかし今、自分がどのような立場に置かれていたとしても、人からあらぬ中傷や非難を受けたとしても、これからの世界をどうにかより良いものに変えていかなければいけないと思います。 たとえその人が資格取得や公務員試験、プロの選手になることをあきらめるとしても人生をあきらめるということではありません。 その人はまた別の新しい人生や生き方を見つけることが出来るはずです。 

 

 人は平等ではありません。人生は公平ではありません。何度も失敗や挫折をすることでしょう。 しかしそんな苦しい時にこそ立ち上がり、危険を冒し、自分が正しいと信じたことを行おうとする一人でも多くいるのなら、次の世代、そしてそれに続くさらに次の世代も今よりずっと素晴らしい世界になるのではと思います。

 

 今から始めることがきっと世界を変えていけるのだと思います。 

 

 たとえこの国を去ることを決めたとしてもこの国で困難を乗り越えた経験がこれからの事業発展の礎になり、フィリピン進出に携わった方の人生を豊かにしてくれるものだと信じています。

 

 このコロナの影響を受けて、このフィリピンという国から撤退されることを決断した企業、同時に仕事を失ってしまってしまった方へのメッセージとしたいと思います。

 

 それでは今日はこの辺で失礼します。