村松時計店はどんな時計のオーバーホールでも引き受けてくれます。古時計を所有しているものにとっては、まさに「港」のような存在です。
今回OHをお願いしたのは、父の形見のセイコーオールドクォーツでした。
村松時計店にはアンティークウォッチを愛する三代目と四代目がいるので、安心して頼ることができました。でき上がりをみると、丁寧にクリーニングしてあるのが一目で分かります。磨かれてはいますが、父が刻んだケースの小傷はちゃんと残されていて、思いやりを感じました。本当に村松時計店にOHをお願いしてよかったです。父もさぞ喜んでいることでしょう。
さて、だから、この記事は、「父の形見の時計がきれいになって、よかったね…」、という内容で終わるはずだったのですが、四代目は今日も自慢のコレクションを出してきたので、続きを書かないといけなくなりました。
思い返せば、今日の四代目は服装や髪形からしてお洒落でありました。私にも覚えがあるのですが、素晴らしい腕時計を身に着けると、姿勢とか、他の部分の身だしなみにも自然に気を遣うようになるのです。
四代目が、今日着けている時計を、いかに気に入っているかが想像できます。
四代目が手首から取りはずして私の目の前に置いたのは、たいへん年季の入ったチュードルでした。
冒頭の写真の時計です。これはプリンスですね。Ref.7967なのだそうです。ハニカムブラックミラーダイヤル。ラグは細身でキュッとツイストしていて、このようにデザインされたものをボンベイケースというそうです。自分もチュードルはよく調べるようにはなっているけど、これは、ちょっと見たことも聞いたこともないレベルです。
ちなみに、ハニカムとはハチの巣という意味です。
私が知らなかったこの時計を、四代目は、「ずっと狙っていた…」、と、言っていたので、腕時計の世界の奥深さをというか、自分のレベルを思い知りました。さすがであります。
いやぁー(嘆息)、と、完全に言葉を失っている私に、四代目は、すかさず、
「こんなのもあるんですよー」、と、追い打ちをかけまてきました。いつものことでありますが、四代目は単発では終わりません。
四代目がハニカムブラックミラープリンスの横に置いたのは、4ケタエアキング(Ref.5700)でした。アイボリーに変色した白文字盤が色気たっぷりです。
私が写真を撮ろうとすると、四代目は、「まって」、と、私を制しました。何をするのかと思ったら、やおら時刻を10時10分に合わせはじめました。
わかります、四代目。その気持ち。
ちなみに、10時10分というのは、アナログ時計が最も美しく見える針の角度になる時刻です。
その後、せっかくのブラックミラーだし、店の外で写真を撮ろうということになり、仲良く二人で店から出ました。この光景も恒例になってきましたが、ありがたい経験をさせて貰っていることに感謝の気持ちを忘れてはなりません。
みなさま、ヴィンテージエアキングを乗せた四代目のリストショットをご覧ください。四代目、手タレ(手タレント)デビューです。
素晴らしいですなぁ。いい仕事してますねー。
同じことを私がやると、肌のシミや手毛が邪魔して、せっかくの時計の美しさが台無しの残念な絵ができあがるのですが、四代目、若い。
その後、店内に戻り、四代目とお話をしていたところ、突然、思わぬアクシデントがおこり、今度は腕時計どころではなくなってしまいました。
周辺にいたものは、それまでやっていたことを放り出して対応しなければなりませんでした。
あとで店内の時計を見て、いいものがあったら買おうかな、くらいに思っていたんですが、今日のところは引き上げるしかありませんでした。
しばらくしたら、また四代目のところに修理をお願いしたい時計があるので、出直そうかと思います。