その翌日。



仕事終わりに電話して


素直に、

ただ、素直に



和「逢いたい」  



そう、伝えた。




それから数時間が経った今、




俺はホテルの部屋で

ソファーの上にあぐらをかいて座りながら

ゲーム機の中の敵と戦っている。



あいつは奥の部屋でパソコンに向かい

たくさんの書類に囲まれながら、

期限と言う名の敵と戦っていた。




和「しぃ~ ?」



そう呼ぶと



S「なぁ~に?」



そう

遠くから返事が返ってくる。



「しぃ~?」


何度呼んでも


「なぁ~に?」


必ず返事が返ってくる。




最後の返事が聞こえたすぐ後、

手帳らしきものを手に持ち

ブツブツ独り言を言いながら

あいつが奥の部屋から出て来た。



S「ん……、 それだと無理か……。」



「あ~、ケーキ食べたい……。」

「プリンも食べたい……、喉 乾いた。」




和『漏れちゃってんじゃない。心の声が  笑』





しばらくすると部屋中が

ほろ苦い香りでいっぱいになった。




あいつの姿を視野に入れてはいるが

俺は特に

話し掛けたりはしない。



仕事の事に口出しはしない。




けど、一つ気になるのは

あいつは時折

どこか一点を見つめながら

唇を指先でなぞるしぐさをする事。




和『最近やたらするね。あのしぐさ……。』




コトッ…。




和「ん。ありがと」



それにはやっぱり、

砂糖もミルクも入れられてはいなくて、

何だか胸が、くすぐったくなった。



和『フフッ…。』




そのまま部屋へ戻るのかと思いきや

俺の隣に膝を抱えてちょこんと座り、

同じであって同じではない

色の変わった「 それ 」を飲みながら

手帳とにらめっこをし出した。




和「しぃ?」

S「なぁに…?」

和「足 下ろして」

S「ん?」

和「首が疲れた」




あいつの膝に頭を乗せて寝転ぶと

手のひらで優しく髪を撫でるから、

俺は嬉しくなって

少しだけ目尻を下げた。




グレープフルーツの香りが近づく……。




あいつの唇が

俺のおでこに触れた。






和「そこじゃないだろ?」





そう言って、
あいつの首の後ろに手を伸ばし
息がかかる距離まで引き寄せる。



部屋に響く短いリップ音
 


和「甘過ぎ…。おまえの唇……。」



重ねた唇が
絡み合う頃、





♪~//♪~//♪~//





今の俺には邪魔でしかない音が
遠くであいつを呼んでいた。




~ 続 ~