「そうですね、今まで男性にそう言う質問をされた事も無いです」

孝志は運転しながら、菜奈美の言葉に聞き入った、

そう言う質問をされた事も無いって?

孝志は菜奈美の答えの背景を色々想像しながら考えるための時間稼ぎにとりあえず答えた、

「そうなの?」

孝志は単純に菜奈美はまだ男性に誘われた事が無いと言う事か?

あるいは、男性とそう言うエッチな話をした事も無いって事か?

と、いろいろ考えていると、

菜奈美が少し硬い緊張感のある声で、

「経験の有無を生まれて初めて聞かれました」

と言う、

孝志は思わず菜奈美をチラリと見ると、

菜奈美も孝志を見ていて、目が合って、

孝志はドギマギしそうになったが踏みとどまり、平静を装い、

「そう言う下品な質問をする馬鹿な男に会わなかっただけですよ」

孝志は我ながら、いい返しをしたと思っていると、

菜奈美が問いかけてきた、

「下品な質問?」

菜奈美のその声は、孝志の例の返しの自画自賛に水を浴びせる様な冷ややかさがあった、

でもお寝坊な奴には水をぶっかけた方がいいものだ、

孝志は自画自賛してる場合じゃない、もっと緊張しなきゃと思いを新たにし、

柔らかく、そっと話しかけた、

「ちょっと、行ってみます?」

そう言って孝志は運転しながら菜奈美を見ると、

菜奈美は孝志と目を合わせてから、前方に視線を戻した、

孝志は菜奈美のその沈黙に、

「ラブホテルってね、女性向けの内装だし、清潔だし、それに僕は菜奈美の気持ちを無視する様な事はしないですよ」

そう言って孝志はそっと菜奈美の横顔を見ると、真っ直ぐ前を向いたままで、

ホテルの部屋を覗きに行く事を拒んでいる様には見えない、

それにしても独特な雰囲気の女の子、

ラブホテルに誘ったのに、

十八とは思えない、可愛い子振る訳でもなく、知ったか振りをする訳でもなく、恥ずかしそうにする訳でもなく、

まるで三十前後の女性の様に理性が支配している様な態度、

六つも年下の菜奈美に年上の女性に対する憧れを感じてしまう、

不思議な女の子、孝志は世の中にはいろんな人がいるんだなと感心して、

それにしても、まだ明るい昼間、

ドライブをしながら孝志は話題を変えた、

「友達は、やっぱり女子ばっかり?」

すると、緊張感のない声、話題が変わり話しやすくなったのか、

思い出しながら少しゆっくりとした、話し方、

「特に仲がいい友達は三人居て、その内の一人は高校生の時からの友達です」

そう言って菜奈美は、

「三人から心配されています」

と言葉を付け足した、

孝志は菜奈美の話の流れで、なるほどと思った。


つづく。