日曜の朝、結局週末に孝志からの電話があり、

今日会う、

九時の待ち合わせに間に合う様にお家を出て大袋駅に向かう、

菜奈美は初めてのデートより二度目の今日の方がドキドキしていると感じながら、

歩道を歩く、

一度会って安心感がある人で、なのにドキドキしている、不思議な感じ、

駅舎が見えて、孝志の車がもう既に待っているのが見える、

するとそのドキドキが増してきた、

菜奈美は、落ち着かなきゃ!と自分に言い聞かせて、

孝志の車に近付き、助手席の窓から運転席の孝志を見ると、

孝志も菜奈美を見上げて、微笑んでいる、

菜奈美は車に乗り込み、孝志を見て、

「おはよう」

と言って目を見ると、朝からビューラーを使った様なまつ毛の目が微笑んで

「おはよう」

孝志が挨拶を返した、朝から上機嫌の様だ、

車が走り出す、

「今日は凄く天気もいいし、牧場に行ってみようよ」

菜奈美は牧場と聞いて、

「もしかして明日香牧場?」

この辺りで牧場と言えば、明日香牧場、ファミリー層からカップルのデートスポット、

そしてお昼には美味しい焼肉が食べられる、

孝志は答えた、

「うん、有名だよね」

幹線道路を走りながら、孝志が、

「お互い何て呼びます?菜奈美さんは菜奈美さんでいいでしょう?」

菜奈美は思わずためらった、

「菜奈美さんは僕の事何て呼びます?」

孝志の名前・・・、

菜奈美はなかなか返事が出来なくて、

すると孝志が、

「普通に孝志さんにします?」

なぜか返事が出来ない、孝志の名前を呼ぶのが恥ずかしい、

菜奈美はどうしてこんなに恥ずかしく感じているのか分からない、

「どうします?」

孝志が催促をしてくる、

菜奈美はとりあえず答えた、

「名前ですか?」

名前を呼ぶだけの事なのに、恥ずかしい、

沈黙があり車内は静かになった、

片側二車線の幹線道路から、片側一車線の県道に入る、

菜奈美は人の名前を呼ぶだけの事なのにどうしてこんなに恥ずかしさを感じているのか考えていると、

「まぁ、ゆっくり考えて決めましょうか」

と呑気な言い方で、ちょっと愛嬌のある声で孝志がそう言った、

そして話が変わり、

「明日香牧場は行った事あります?」

菜奈美は直ぐに答えた、

「行った事ないです」

すると孝志が、

「真夏に行くのもいいけど、冬でも今日みたいに天気が良ければ、ただ風がちょっと心配だけど、あそこのレストランの焼肉が美味しいから」

孝志はそう言って、

「お昼を食べにゆくだけなら、夏も冬も関係ないからさ」

菜奈美はその話を聞いて、孝志は結構グルメなんだと思っていると、

会話が途切れた、

菜奈美はふと、名前の呼び方の話が気になったが、孝志はもうそれには触れない様で、

でも、なぜ孝志の名前が呼べないのか考えた、

道は丘陵地帯の中に伸びる一本道、その道を走っていると牧場の看板が見えた、

「あの看板を右折みたいですね」

と孝志が呟く様に言って、車が減速し始めた、

牧場の中の道を進むとワンボックスの車が目立つ沢山の車が停まっている駐車場があり、

孝志はその駐車場に入り、空いている場所を見つけてそこに車を停めると、

「もうこんな時間だから先にお昼にしますか?」

確かにもう昼前だ、

大きな倉庫が建っていて、その倉庫の向こうに広がる大地、

菜奈美は歩きながらその彼方に目をやると、牛が居るのが見えた、ここから遠くて、牛が小さく見えている、

「牛がいる」

と呟くと、孝志が

「何処?」

ときょろきょろしたので菜奈美は指差すと、

「本当だ、美味そう!」

と言ってから

「冗談です」

と言って菜奈美を見る、

菜奈美は牛を食べに来たのだから、そう言う事なのだが、口に出す言葉じゃない、

と思っていると、孝志が、

「レストランはあっちの方だったかな?」

と話を変えた、

その話を変える素早さ、レストランを探す足取りのその身のこなし、

愛嬌たっぷり。


つづく。