切れた電話を見つめて、

生まれて初めての、男性との電話を終えた、

電話をする前は勢いがあったが、電話が繋がると体が固まってしまった、

菜奈美はこれでよかったのか?と思い、

谷原孝志が次は、私から電話をすると言っていた、

彼の問いかけ、言っていた話はよくわかる、お互い相手を知らないのだから、

話はぎこちないし、緊張もする、

菜奈美はそこで自分の中にある不安を噛み締めた、

好奇心はあるのだが、それを出せない、恥ずかしいし、自分の弱いところを相手に見せる様な気がして、うまく喋れなかった、

でも、彼は電話をすると言っていた、

彼から電話がかかってくる様だ、

男性に対して好奇心はあるが、その好奇心を会ったばかりの彼、谷原孝志に向けていいのかが分からない、

初めて感じる複雑な思い、まるでいけない事をしている様な感覚、


 白木静香は大学の学生食堂にいた、

歴史の古い大学で食堂の中や厨房はリニューアルされてはいる様だが、

そのリニューアルが相当以前の様で、特に食事をする、テーブルが沢山並んだホールは、

日本が昔、凄く景気が良かった頃にリニューアルされたのか、明るいのだが、どこか時代遅れな部分がある、

正面の席に永沢菜奈美、

向かって右手の席に絵色恵美、

左手の席に菊池きみえ、

四人で食事をし始めてもう十ヶ月くらいになる、

絵色恵美は開業医の娘で、菊池きみえの父親は小売の酒屋の二代目で、手広く飲食店なども手掛けていて、

二人とも社長令嬢の様に身につけているものも、持ち物もブランド物が目立つ、

静香は菜奈美の上品に咀嚼する口元を見て、

菜奈美と私はサラリーマン家庭だが

そこが結論ではない、と一人考え事をしながら食事をした、

そもそも菜奈美とは付き合いが長い、高校一年生で出会い、

興味深い女の子だと思い、大学まで菜奈美を追いかけて来た、

静香は大学にこだわりがなく、親が行けと言うからどこにしようか考えていたら、

菜奈美がこの白雲女子大を受験すると聞いて、静香も同じ大学を受験した、

菜奈美の食事の様子を見れば分かる通り、

厳しく躾けられて、と言うと誤解を招くから、

きちんと躾けられた、と言い換えるが、

ドッグトレーナーの経験のある犬とない犬とでは見ただけですぐ分かる違いがある、

静香は恵美、菜奈美、きみえの順番で見比べた、

すると、きみえが、

「菜奈美、合コンとかじゃないよ、知り合いの男子に誘われて、女子を揃えないと行けないから」

と切り出すと、恵美も、

「私も、行くから」

そしてきみえは、静香に向き直り、

「静香も、お願い数を揃えないと行けないから」

静香は菜奈美を見て、

「菜奈美、合コンじゃないって言ってるし、どうする?」

と問いかけた、

菜奈美は合コンの時の男性の媚を売るあの雰囲気が嫌いで、合コンには行かない、

恵美もそこを心得ている、

男性経験のない菜奈美をみんな口には出さないが、心配している、

すると、

菜奈美はコップの水を少し飲んで、

大人っぽい目の瞼を二、三度パチパチさせた、

静香は、私が男だったらこんないい女、ほっとかないと思いながら

菜奈美が何を言うか待ってると、

「まだ、どうなるかわからないけど、男の人と電話でお喋りしたの」

静香自身驚いたし、他の二人も驚きを隠さなかった、

真っ先に恵美が、

「どう言う事?」

菜奈美は恵美を見て、

「美容室で、知り合って、少し話をして、美容室のオーナーがその人に連絡先の交換しないのって言ったら、電話番号を私にくれて、電話をしたの」

静香はそう説明する菜奈美の顔を見て、

まだ本気じゃない顔、って言うか、出会ったばかりだし、でも菜奈美に電話をさせる男がいたんだと思い、嬉しくなったが、その気持ちを表には出さなかった、

そしてきみえが菜奈美に問いかけた、

「どんな男の人?」

菜奈美はきみえに顔を向けて、

「二十四でサラリーマン、優しそうな感じだった」

そこで静香は言った、

「社会人いいじゃん!デート代奢ってくれそう」

でも菜奈美はテンションを上げて話に付き合わない、静香は分かっている、菜奈美と古い付き合い、

この落ち着いた振る舞いが菜奈美の魅力、

恵美が菜奈美の顔を覗き込む様に問いかけた、

「彼氏になりそう?」

菜奈美は恵美を見返して、

「相手の男の人は彼女を探している様な事を言ってた」

静香は菜奈美のその一言で電話の内容の察しが付いた、

相手の男は素直なストレートな男だと、

それで静香は菜奈美に、

「上手に誘い出す男なら、デートぐらいしてあげれば」

菜奈美は静香を見て、不安気に頷いた、


つづく。